[Vol.1268] 大衆迎合、ESG神聖化が戦争の遠因!?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。109.45ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。1,817.60ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年09月限は12,875元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。22年08月限は723.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで911ドル(前日比5.2ドル拡大)、円建てで3,962円(前日比8円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月30日 16時26分頃 6番限)
7,923円/g
白金 3,961円/g
ゴム 257.4円/kg
とうもろこし 51,720円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近)日足
出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「大衆迎合、ESG神聖化が戦争の遠因!?」

前回は、「「原油市場」でぶつかるロシアと西側の思惑」として、ウクライナ危機発生後の、西側とロシア双方の、原油市場における思惑を整理しました。

今回は、「大衆迎合、ESG神聖化が戦争の遠因!?」として、ウクライナ危機が発生した経緯について、筆者の考えを述べます。

前回、原油市場が「戦場」化していると述べました。その理由の一つである「インフレ」は、なぜ起きたのでしょうか。ロシアがウクライナに攻め入って供給制約のきっかけをつくったことが主因、とされています。では、ウクライナ危機は、なぜ起きたのでしょうか。

1.ロシアで反西側感情が強まっていた

2020年は「脱炭素」元年だったと筆者は考えています。化石燃料を否定してトランプ氏を激しく批判したバイデン氏が米大統領選挙に勝利した年です。翌年、米国はパリ協定に復帰し、それをきっかけに西側では化石燃料批判の大合唱がおきました。

この大合唱を、ロシアをはじめとした産油国はどのような気持ちで聴いていたのでしょうか。化石燃料批判は、産油国批判に他なりません。2020年はロシアの反西側感情に、一気に火が付いた年だった可能性があります。

2.西側のリーダーは断固たる措置を講じることができない

西側のリーダーは、大衆迎合にならざるを得ません。選挙が定期的に訪れるためです。(直接・間接問わず)リーダーを選ぶ大衆は「モノ言う株主」ならぬ「モノ言う大衆」と化していると、感じることがあります。

争いを起こしたり、人を殺(あや)めたりする人・国は例外なく悪、物価高(インフレ)は受け入れられない、自分の生活は平穏でありたい、ESGを順守して気候変動に気を配ってくれる美しい国や企業は善。こうした環境を提供してくれるリーダーが良いリーダー。

豊かで自由な西側諸国ほど、このような大衆を抱えている傾向があります。西側のリーダーたちは選挙で勝つために、こうした、ある意味モノ言う大衆に、寄り添わなければなりません。寄り添えば寄り添うほど、凶悪な存在に対して断固たる措置を講じにくくなります。

仮に今、米国を中心とした西側の多国籍軍がロシアを攻撃した場合、西側のリーダーたちは、モノ言う大衆たちの非難の豪雨に打たれるでしょう。これは、西側が断固たる措置を講じることができない一因であり、ロシアにとって都合の良い真実と言えるでしょう。

3.ロシアは西側を攻撃する術(すべ)を知っていた

およそ100年前、ロシア革命(1917年)を主導したウラジーミル・レーニンは、「資本主義を破壊する最善の策は、通貨を堕落させること」と語ったとされています。通貨の堕落、言い換えればインフレです。資本主義を是とする西側を攻撃するのに効果的な方法を、レーニンが説いていたわけです。

4.「インフレ」を起こしやすい素地が出来上がっていた

リーマンショックで傷んだ経済を立て直すべく、西側の主要国は2009年から2014年ごろまで断続的に金融緩和を行いました。その後一時は金融引き締めに転じたものの、2020年に新型コロナがパンデミック化したことを機に、再び大規模な金融緩和を行いました。

こうした金融緩和によって、世界全体でマネーがじゃぶじゃぶな状態におちいりました。高インフレが起きる素地は、こうしてできあがりました。レーニンが説いた西側を攻撃する術を、実践しやすくなったと言えます。

上記4つの背景が、以下の図のとおり重なり、ウクライナ侵攻が起きたと、筆者は考えています。

図:ウクライナ危機が発生するまでの経緯
ウクライナ危機が発生するまでの経緯
出所:筆者作成
 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。