[Vol.1267] 「原油市場」でぶつかるロシアと西側の思惑

著者:吉田 哲
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原油反落。主要株価指数の反落などで。110.91ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。1,821.90ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年09月限は12,860元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年08月限は728.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで910.4ドル(前日比5.05ドル縮小)、円建てで3,987円(前日比56円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月29日 11時51分頃 6番限)
7,936円/g
白金 3,949円/g
ゴム 258.9円/kg
とうもろこし 52,270円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近)日足 出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「「原油市場」でぶつかるロシアと西側の思惑」

前回は、「「インフレ退治」に成功すれば支持率上昇」として、「インフレ退治」がリーダーたちの支持率向上に結び付くことについて、述べました。

今回は、「「原油市場」でぶつかるロシアと西側の思惑」として、ウクライナ危機発生後の、西側とロシア双方の、原油市場における思惑を整理します。

前回、西側が利上げを敢行している理由を、国内情勢に注目して述べました。ここからは、範囲を西側と敵対するロシアに広げ、西側が利上げなどを行う(原油相場を下げたい)理由、ロシアが資源の囲い込みなどを行う(原油相場を上げたい)理由について、考えます。

原油相場は「戦場」
原油相場は今、西側とロシアにとって、相手にダメージを与えたり、メリットを享受したりする場になっています。さしずめ「戦場」と化していると言えるでしょう。西側は利上げなどを敢行し、原油相場に下落圧力をかけています。たとえ景気鈍化が深刻化しても、です。

一方、ロシアは自国資源の囲い込みを強化したり、ウクライナで蛮行を繰り返し、西側にロシア産のエネルギーを買わないように(制裁を強化するように)仕向けたりして、エネルギー需給を引き締め、原油相場を高止まりさせています。たとえ世界で孤立しても、です。

原油は「経済の血液」といわれることがあります。経済の循環に欠かせない存在であり、かつ世界の隅々まで行き渡っているもの、という意味です。原油の市場が戦場になっているのであれば、その戦争は世界規模で起きている、さながら「世界大戦」と言えるでしょう。

この2週間、西側は一丸となり「利上げ攻勢」で原油相場を下落させ、西側なりのメリットを享受し、ロシアにも一定のダメージを与えました。それまで、原油相場が高騰し、西側は劣勢だったわけですが、この2週間は、西側が「反撃」をしたと言えます。

「原油相場上昇」それぞれの意味
西側にとって、原油相場の上昇は、デメリットが大きくなる要素です。インフレがさらに進行して、社会がより不安定化する、リーダーたちに対する国民の支持が一段と低下するなど、ダメージが大きくなるためです。

対ロシアでみてもデメリットがあります。原油相場が上昇すれば、ロシアが、ウクライナ戦のための戦費をより多く獲得したり、他の産油国からのさらなる支持を取り付けたりすることを、許してしまうためです。

一方、ロシアにとって、原油相場の上昇は、メリットが大きくなる要素です。獲得できる戦費や産油国内での発言力が増したり、敵対する西側が高インフレと強い不安感にあえぐ姿を傍観(ぼうかん)したりできるためです。(世界で孤立するというデメリットも発生)

「原油相場下落」それぞれの意味
西側にとって、原油相場の下落は、メリットが大きくなる要素です。先述のとおりリーダーの支持率が上昇するだけでなく、ロシアの戦費が減少したり、産油国のロシアに対する支持が低下したりするためです。(利上げ起因であるため、景気鈍化というデメリットも発生)

一方、ロシアにとって原油相場の下落は、デメリットが大きくなる要素です。獲得できる戦費や産油国内での発言力が低下したり、敵対する西側が高インフレから解放され、経済回復が進むことを、許したりしてしまうためです。

図:「原油市場」でぶつかる西側とロシアの思惑
「原油市場」でぶつかる西側とロシアの思惑
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。