サウジアラビアへの無人機攻撃と金価格

著者:近藤 雅世
ブックマーク
 16日のNY金価格はサウジアラビアに対する無人機による攻撃のニュースにより+12ドル高の1,511.5ドルとなった。原油価格の上昇と、株価が下落したことも金を買わせた。問題は、この地政学的リスクは一時的なものかどうかという点である。今回の攻撃だけで済んだなら、復旧に数週間から数ヵ月かければ、元に戻る。原油価格の上昇もその間だけであろう。

 サウジアラビアを無人機で攻撃したとしてイエメンのフーシ派が名乗り出ているが、サウジアラビアによれば、攻撃された施設はイエメンから遠いサウジアラビア東部の二か所であり、フーシ派が述べた10機の無人機ではなく19機以上だったという。またクウェート上空を飛行体が飛んだという目撃情報があることから、イエメンではないと断定している。

 一方、米国は、無人機がイラクかイラン方面から飛来したとして、背後にイランがいると非難しているが、イランのスポークスマンは身に覚えのないことだと否定している。

 Wall Street Journalによれば、10月の国連総会で予定されているイランのロウハニ大統領とトランプ大統領の会談を快く思っていないイランの過激派組織を犯人候補の一つに挙げている。またイランの隣国イラクの民兵組織「人民動員隊(PMF)」の可能性もあるという。

 今後米国とサウジアラビアは犯人探しの調査を進めるものと思われるが、トランプ大統領は犯人を突き止めた場合、相手次第では武力行使を行う可能性がある。大統領選挙を前にしたトランプ大統領は、イランのような国家ベースの戦争は望んでいないと思われるが、武装勢力規模であれば、サウジアラビアの反攻に加担する可能性がある。なぜなら、無人機による攻撃は格安で、効果的破壊手段として今後も使われかねないからだ。

 無人機の攻撃に対する石油施設の脆弱性が露呈した今、犯人を突き止めた上で報復措置を取らねば、後顧の憂いを残すことになるだろう。今回のサプライズだけなら、その影響は今後数週間から数ヵ月で沈静化すると思われるが、攻撃の種が残っている限り、いつまでもサウジアラビアは枕を高くして眠れないことになる。従って地政学的リスクは始まったばかりなのかもしれない。

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
URL:http://commi.cc/
eメール:kondo@commi.cc