デリバティブを奏でる男たち【60】 シュワルツマンのブラックストーン(後編)

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◆創業者ピーターソンの生い立ち(続き)


 今回はオルタナティブ投資の巨人といわれるブラックストーンを紹介しています。同社はスティーブン・アレン・シュワルツマンとピーター・ジョージ・ピーターソン(1926- 2018)によって1985年に創設されました。

 この年にピーターソンはジョン・デイヴィソン・ロックフェラー4世(通称ジェイ・ロックフェラー)に代わって、外交問題評議会(CRF、Council on Foreign Relations)の議長にも就任しています。この団体は1921年に設立された米国の外交政策と国際関係を専門に扱うシンクタンクです。独立した無党派の非営利団体ですが、アメリカの対外政策決定に対して著しい影響力を持つといわれています。ピーターソンがこのような重責を担うことになった背景には、元の上司であったパーシー米上院議員がジェイ・ロックフェラーの義理の父親だったことがあるのかもしれません。ピーターソンは2007年に退任するまでその職を務め、その後は名誉議長に任命されました。また、ピーターソンは2000年から2004年までニューヨーク連邦準備銀行の議長も務めています。

 加えて、ピーターソンは一時ソニー(現在のソニーグループ <6758> [東証P])の社外取締役も務めていました。NBC、ABCと並ぶ米国の三大放送ネットワークの一角、CBSからソニーがレコード部門CBSレコーズ(現在のソニー・ミュージックエンタテインメント。1991年に東京証券取引所に上場、2000年にソニーが完全子会社化して上場廃止)を買収する際、ブラッストーンが助言したことが縁だったようです。

 また、「ビッグ5」といわれる米国のメジャー映画スタジオの一角であったコロンビア・ピクチャーズ・エンターテイメント(現在のソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)を、1989年にコカ・コーラから買収する際にも、ブラッストーンが助言しました。ちみなに、「ビッグ5」の他の4社は、パラマウント・グローバル傘下のパラマウント・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー傘下のワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、コムキャスト傘下のユニバーサル・ピクチャーズ、ウォルト・ディズニー傘下のウォルト・ディズニー・スタジオです。

 

◆ブラックロック


 ブラックストーンは現在、プライベート・エクイティ(未上場株式)、不動産、クレジット(融資)と保険、ヘッジファンドなど、さまざまなオルタナティブの資産クラスへの投資を行っていますが、設立当初は合併と買収の助言を主要業務とするほかは、「ブラックストーン・キャピタル・パートナーズ」というプライベート・エクイティ・ファンドを運用するだけでした。1988年に同社は債券運用部門としてブラックストーン・フィナンシャル・マネジメントを立ち上げます。同部門の主要メンバーが第12回で取り上げたブラックロックの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)であるローレンス・ダグラス・フィンク(通称ラリー・フィンク)でした。それ以前のフィンクはファースト・ボストン(後のクレディ・スイス)で、米国のMBS(Mortgage Backed Securities、モーゲージ担保証券)市場の創設と開発に尽力し、同社最年少の役員となりましたが、巨額の損失を計上して退社を余儀なくされていました。そこで当時の仲間を誘い、ピーターソンに資金提供を依頼した結果、ブラックストーンの傘下で仕事をすることになります。

ブラックロック 月足


 その後に同部門は順調に成長していきましたが、1994年に報酬を巡ってシュワルツマンとフィンクが対立。ブラックストーンが米国大手地銀グループのPNCフィナンシャル・サービス・グループに同部門を2.5億ドルで売却することで袂を分けます。名前はブラックロック・ファイナンシャル・マネジメントに変更され、これがブラックロックの前身となり、同社は1999年に上場を果たします。結局、2014年までにPNCがブラックロックから得た利益は120億ドルにも上り、シュワルツマンはブラックロックの売却を「壮大な間違いだった」と悔やんでいます。ブラックロックについては以下をご参照ください。一方でブラックストーンも2004年に新規株式公開を予定していましたが、資金調達に失敗。ブラックロックに8年遅れて、2007年に上場しました。

ブラックロックのラリー・フィンク(前編)―デリバティブを奏でる男たち【12】
https://fu.minkabu.jp/column/1145

ブラックロックのラリー・フィンク(後編)―デリバティブを奏でる男たち【12】
https://fu.minkabu.jp/column/1147

 

◆最近のブラックストーン


 最近のブラックストーンは、日本でも活発に活動しています。2021年に個人向け事業に参入。プロ投資家を相手に私募ファンドを募集したほか、2022年には最低5万ドルから投資できる非上場の不動産投資信託(REIT)を公募しました。2023年にはプライベート・クレジット(未上場企業向け融資)ファンドを募集しています。もちろん、資金調達ばかりでなく、不動産の売買も盛んに行っており、2022年には関西で2物件、2023年には東京で1物件、いずれも高級ビジネスホテルを取得しました。その一方で、日本国内の物流施設6物件を売却しています。

 ブラックストーンは基本的に、マーケットが好調のときには手持ちの資産を売却、もしくは資金調達を行って手元流動性を豊富にしておき、マーケットが不調のときに積極的な行動に出ることを旨としているようです。また、最近は生成AI(人工知能)ブームを先取りするように、データセンターへの投資を目論んでいるとのこと。

 しかし、そうした姿勢が投資家にいつも受け入れられるかどうかは別の問題です。同社の不動産ファンドBREIT(ブラックストーン・リアル・エステート・インカム・トラスト)は2022年12月に償還請求の制限を発表しました。四半期の限度を超える償還要請に直面したことが原因だそうですが、その背景には米金利上昇による借り入れコストの大幅な増加と景気減速といった懸念があるようです。このように市場の地合いと投資家心理の両にらみは、同社に限らず投資会社の抱える大きな悩みといえるでしょう。(敬称略)

 

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。