[Vol.1571] プラチナは今ダメかつ長期視点で有望

著者:吉田 哲
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原油反発。ロシアからのエネルギー供給減少懸念などで。90.11ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。1,946.35ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年01月限は14,265元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年11月限は695.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1009ドル(前日比6.00ドル縮小)、円建てで4,774円(前日比5円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月22日 17時44分時点 6番限)
9,184円/g
白金 4,410円/g
ゴム 235.5円/kg
とうもろこし 39,380円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス
NYプラチナ先物(期近) 月足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「プラチナは今ダメかつ長期視点で有望」
前回は、「『そもそもはじめから安い』の効用」として、積立投資においてそもそも価格が安い銘柄が持つ効用について、述べました。

今回は、「プラチナは今ダメかつ長期視点で有望」として、国内大手地金商の小売価格(税抜)の推移について、述べます。

前回述べた「そもそもはじめから安い」銘柄とは、どのような銘柄でしょうか。数十年間、誰にも注目されたことがない銘柄、あるいは何らかのきっかけで急に注目されなくなった銘柄、などでしょう。

投資が一般化した世の中で、数十年間、誰にも注目されたことがない銘柄は、あるのでしょうか。筆者はないと考えます。一方で、何らかのきっかけで急に注目されなくなった銘柄はあります。「プラチナ」です。

2015年9月、「フォルクスワーゲン問題」が発覚しました。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが違法な装置を使い、不正に排ガステストを潜り抜けていました(テスト時に限り、有害物質の排出量が少なくなる装置を使っていた)。

これを機に、同社の主力車種だったディーゼル車(燃料が軽油、欧州で広く流通)を否定する動きが強まりました。そして、同車の排ガス浄化装置向けに多く使われる「プラチナ」への悲観論が膨れ上がりました。

同装置は、プラチナが持つ触媒作用(一定の条件下で自分の性質を変えずに相手の性質を変える作用)を利用し、エンジンから排出される排気ガスに含まれている有害物質を水や二酸化炭素、比較的毒性の少ない物質に変える役割を担っています。

同装置向けはプラチナの最も大きな用途です(同装置向け39.9%、その他産業向け32.4%、宝飾向け23.0%、投資向け4.7%。2023年WPICの見通し)。同問題が発覚したことを機に、世界で(日本でも)「プラチナの需要は減る一方だ」「プラチナはもうダメだ」「プラチナ価格はもう上がらない」などと、プラチナを否定的に見る論調が広まりました。

こうした「まことしやかな」批判によって、プラチナは注目されなくなりました。価格はリーマンショック直後の安値付近まで下落し、長期視点でその後も上値を伸ばせないままです。

しかし実際は、同需要は減る一方でも、プラチナがダメになるわけでもありませんでした(このことを風評被害と言うアナリストがいる。同感である)。確かに欧州の同需要は減少しましたが、近年は、全体的に増加しています。

WPICは先週公表したレポートでその理由を、(1)北米でハイブリッド車の生産が増加(プラチナをより多く使う)、(2)中国で小型車生産増加、大型車生産増加(2023年7月発効の「中国6b」排ガス規制対応)、ガソリン車でパラジウムの代替としてプラチナを使う動きが目立つ(価格が割安)、(3)日本で燃料電池車向け需要が増加、などとしています。

さらには、2023年の同需要は2015年(同問題が発覚した年)を上回るという見通しが示されています。全体として、プラチナは風評被害から回復しつつあるのです。この点は、「ダメで価格が低迷したプラチナ」が、再度注目を集めるきっかけになると、筆者は考えています(「そもそも安い」の条件を満たしつつ、価格反発のきっかけを探っている段階)。

そして、超長期視点で価格が上昇し得る材料もあります。西側諸国が進めている「脱炭素」起因の新しい需要(グリーン水素の生成装置やFCV(燃料電池車)の発電装置向けの需要)が長期視点で増える可能性もあります。この点は「長期視点で価格上昇が望める」を実現する要因になり得ると考えます。

プラチナは、「そもそもはじめから安い」、「長期視点で価格上昇が望める」という性質を併せ持った、積立投資に適した銘柄だと、筆者は考えています。積み立てゆえ、価格は目立って暴騰する必要はありません。人知れず長期視点で上昇すればよいのです。

「風評被害」がプラチナの積立投資への適性を高めた事実に注目しない手はないでしょう。脱炭素起因の新しい需要が長期視点の価格上昇を実現する可能性もあり、積み立てといえば「プラチナ」と言われる日が、いつか来ると筆者は考えています。

図:国内大手地金商の小売価格(税抜)の推移(2023年8月まで) 単位:円/グラム
図:国内大手地金商の小売価格(税抜)の推移(2023年8月まで) 単位:円/グラム

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。