[Vol.1815] OPECプラスは反発の機会をうかがっている

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反発などで。71.08ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。2,631.40ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年01月限は17,875元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。24年11月限は523.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1641.85ドル(前日比21.65ドル拡大)、円建てで7,549円(前日比145円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月20日 18時14分時点 6番限)
12,108円/g
白金 4,559円/g
ゴム 371.5円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,990円/mmBtu(24年12月限 9月19日17時34分時点)

●NY原油先物(期近) 月足  単位:ドル/バレル
●NY原油先物(期近) 月足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「OPECプラスは反発の機会をうかがっている」
前回は、「戦略備蓄を『4割』減らしたバイデン政権」として、米国の原油在庫の推移を確認しました。

今回は、「OPECプラスは反発の機会をうかがっている」として、OPECプラスの減産(イメージ)を確認します。

OPECプラスは原油の減産を実施しています。原油生産量のイメージは以下のとおりです。自主減産を段階的に終了することとなったものの、大幅に順守している状態にある協調減産は2025年12月まで継続することが決まっています。

図のとおり、自主減産が縮小し、仮に生産用量の上限いっぱいに達したとしても、2018年や2019年の生産水準を上回ることはありません。その意味では、自主減産の縮小が、大幅な供給過剰をもたらす理由にはならないと言えます。(もとより、直近で自主減産縮小の延期を決定している)

彼らは自らの武器である高い生産シェア(世界の原油生産の半分強)を利用し、たくみに生産量を調整したり、世論の隙間を縫ったりしています。OPECプラスが減産を実施する背景には、財政収支均衡に必要な原油価格の存在があると考えられます。

OPECプラス内のOPEC側のリーダー格であるサウジアラビアは「96.2ドル」です。そして、サウジアラビア、アルジェリア、クウェート、イラク、アゼルバイジャンの平均が「97.4ドル」です。100ドルを超えたり、50ドル近辺でも財政が均衡したりする極端なケースを除けば、97ドル前後が、多くの産油国が「安定」する価格と言えそうです。

足元の水準では全く安定しないのです。彼らは「安定」を求め、強い覚悟をもって減産を行っているのです。

西側諸国では、ESG(環境、社会、企業統治)の観点から、石油開発を積極的に行っている企業は環境への配慮がなされていないため投資を控えるようにしよう、プラスチック製品の消費量は減らした方が環境に優しいのでビニール袋は有料にしようなどと、直接・間接、程度の大小問わず、石油を否定する動きが目立っています。

こうした動きがまさに、彼らの財政収支を不安定にし、彼らを厳格な減産に駆り立てているのだと言えます。西側諸国がESGを取り下げない限り、OPECプラスの減産は続く可能性があります。それは、長期的に原油相場に上昇圧力がかかり続けることを意味します。

この数回で、足元の原油安の要因と、今後の展開について筆者の考えを述べました。原油価格が下落してほしいと考える市場関係者や消費者は多いと思います。ただ同時に、海の向こうには原油価格が上昇してほしいと考える市場関係者や市民がいることもまた、事実です。

筆者の見立ては、短期的に反発し、ウクライナ危機勃発後の長期視点の高止まりレンジに戻るものの、上昇してもレンジの上限付近を超えない展開が続くと考えています。

OPECプラスの減産、産油国での戦争は、ともに終わる動機を見いだしにくいため、これらがもたらす上昇圧力は当面続く、同時に、中国の悲観論も終わる動機を見いだしにくいため、これがもたらす下落圧力は続く、そして米国の景気悲観論はFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げをきっかけに徐々に解消に向かい、つられて原油相場は反発する、というイメージです。

上昇と下落、両方の圧力を平等に捉え、かつ時間軸を長めにする、俯瞰(ふかん)的な分析の重要性が増してきていると感じます。

図:OPECプラスの減産(イメージ) 単位:万バレル/日量
図:OPECプラスの減産(イメージ) 単位:万バレル/日量
出所:ライスタッド・エナジー、JODIのデータおよびOPECの資料を基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。