[Vol.1925] ウクライナと米国の交渉決裂は原油高要因

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。67.35ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。2,928.60ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年05月限は17,380元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年04月限は512.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1952.65ドル(前日比5.75ドル拡大)、円建てで9,388円(前日比15円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月7日 19時27分時点 6番限)
13,925円/g
白金 4,537円/g
ゴム 346.1円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,119円/mmBtu(25年5月限 2月28日18時23分時点)

●NY原油先物 月足  単位:ドル/バレル
NY原油先物 月足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「ウクライナと米国の交渉決裂は原油高要因」
前回は、「根底には根強いエネルギー相場の高止まり」として、日本の原油および天然ガス輸入単価とWTI原油価格を確認しました。

今回は、「ウクライナと米国の交渉決裂は原油高要因」として、足元の原油相場を取り巻く環境(2025年1~2月)を確認します。

しばしば、原油相場は好景気の時に上昇しやすい、なぜなら好景気の時は輸送や素材など身近なほとんどあらゆるものの需要が増加するためだ、などと言われます。たしかに、その傾向は一部、あろうかと思います。

しかしそうした単純なシナリオで原油相場を分析できたのは、2000年代前半までだったと、筆者は認識しています。リーマンショックが発生し抵抗、主要国の中央銀行たちはこぞって金融緩和を実施し、お金を大量に社会に供給しました。

このあたりから「信用」が、株式や債券、通貨、そして商品(コモディティ)市場の分析のおける重心になったと考えています。分析の柱が、需給から信用に移った瞬間でした。

そうなると需給に影響し得る実際のデータと同じくらい、プラスの意味を持つ「期待」とマイナスの意味を持つ「懸念」、つまり「思惑」が、市場で重視されるようになりました。このタイミングが、原油相場が需要だけで動かなくなった、起点だったと言えます。

足元、高止まりしている原油相場は、以下の通り、さまざまな思惑に挟まれています。挟まれているため、高止まりするのです。(一方的な上昇も、一方的な下落も起きにくい)

先日、ウクライナ情勢を巡り、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国のホワイトハウスを尋ね、トランプ氏ら、米国の首脳たちと会談をしました。ウクライナの国土に眠る資源を支援の見返りにするという米国側の提案が実現する可能性があると報じられたものの、実際は「決裂」してしまいました。

ウクライナ情勢の鎮静化は、制裁を科されて供給量が抑制的になっていたロシア産の原油の供給が増加し、需給を緩め、原油価格を下げる可能性がありました。こうした思惑が市場で広がり、会談前に短期的な大きい反落が起きました。

実際には、交渉が決裂したため、上記のシナリオを描きにくくなったことから、逆に反発色を強めました。米国と欧州とで、ウクライナ情勢を巡る対応で方針が分裂していることから、ウクライナ情勢をきっかけに生じる思惑は、しばらくの間、原油相場に上昇圧力をかける可能性があると、筆者は考えています。

また、米国と欧州は、ウクライナ情勢だけでなく、SNS規制を巡っても、意見の相違が目立ち始めています。

こうした世界分裂は「世界分裂」に拍車をかけ、分裂に乗じて台頭する非西側の影響力が増し、やがて非西側の資源国が資源を持たない西側へ出し渋りをする動機を強める可能性があります。OPECプラスの協調減産(自主減産ではない)も、この文脈で2027年1月以降も、継続する可能性があります。

原油相場の動向を分析せずして、食品を含む物価動向を分析することはできません。目先、コメの価格がどうなるか、卵の価格がどうなるか、これらの問いへの答えは、原油相場が知っていると、筆者は考えています。

図:足元の原油相場を取り巻く環境(2025年1~2月)
図:足元の原油相場を取り巻く環境(2025年1~2月)
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。