[Vol.2049] 地動説で説明できる現代の「逆行」現象

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。63.39ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反落などで。3,604.50ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。26年01月限は16,325元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年10月限は482.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2216.25ドル(前日比13.85ドル縮小)、円建てで10,918円(前日比30円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月5日 17時35分時点 6番限)
17,067円/g
白金 6,149円/g
ゴム 324.1円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「地動説で説明できる現代の『逆行』現象」
前回は、「地動説が市場を支配するようになった背景」として、海外金(ゴールド)現物価格の推移(1975年1月7日~2025年8月29日)を、確認しました。

今回は、「地動説で説明できる現代の『逆行』現象」として、FRBの利下げ思惑拡大時の国内外の金(ゴールド)相場への影響を、確認します。

パウエル議長の講演の際に発生した「株高・金(ゴールド)高」は、以下の経路で起きたと考えられます。各種市場が利下げを大いに期待する環境で、パウエル議長がそれを示唆したことで、市場のムードは利下げに傾きました。

これを受け、ドル指数(複数の主要国通貨に対する米ドルの強弱を示す指標)が大きく下落し、この大幅なドル安が、金利が付かない金(ゴールド)のデメリットを低下させたり、米ドルに対する金(ゴールド)の価値が向上する観測を浮上させたりしました。

同時に、世界全体における米ドルの信認低下・価値希薄化懸念が生じ、金(ゴールド)の代替通貨としての存在感を強めました。

株価指数が急上昇し、代替資産をきっかけとした下落圧力がかかる中、利下げ示唆をきっかけとした強い上昇圧力がその下落圧力を相殺し、金(ゴールド)価格は上昇しました。

また、円建て金(ゴールド)相場は、世界標準のドル建て金(ゴールド)相場の上昇を受けて上昇圧力がかかる中、ドル安と同時に発生した円高が下落圧力をもたらし、これらが相殺されてほぼ横ばいでした。

現代の金(ゴールド)相場は、短期的に見れば、伝統的材料がもたらす複数の上下の圧力が連続的に相殺され動いていると言えます。「一つの材料のみで動いていない」「上下の圧力が混在している」「それらの圧力が連続的に相殺されている」といったことが、この例から分かります。

2000年ごろ以降の、長期視点の「株高・金(ゴールド)高」についても、明確に説明できます。2000年ごろからリーマンショック発生(2008年)ごろまで、中国やインド、中東諸国といった新興国の個人の金(ゴールド)買いが膨らみました。

宝飾需要自体は伝統的な需要の一つですが、目立って需要が増えたタイミングが比較的最近であることを考慮すると、比較的新しいテーマ(非伝統的材料)と考えることができます。

2010年ごろ以降は、景気悪化や価格(購入時の単価)が高騰したことで買いにくくなったことを受け、新興国の個人による宝飾需要は鳴りを潜めました。しかし、中央銀行が全体として買い越しに転じたことや、世界の分断深化やドル覇権の崩壊懸念などで有事(非伝統的)が目立ち始めたことが長期視点の上昇圧力をかけ始めました。

もちろん、株価が同時に上昇していたため、代替資産をきっかけとした下落圧力が断続的に発生していました。しかし、長期視点のテーマが、そうした下落圧力を相殺して余りある上昇圧力を提供し続けてきました。だから、長期視点で「株高・金(ゴールド)高」が起き得たのです。

短期的な順相関の箇所で述べた、「一つの材料のみで動いていない」「上下の圧力が混在している」「それらの圧力が連続的に相殺されている」ことは、長期視点の値動きにも当てはまります。

このように、短期でも長期でも、「株高・金(ゴールド)高」という「逆行」は、地動説を用いれば簡単に説明することができます。

金(ゴールド)市場における天動説は、分かりやすいという特徴があるため、今でも多くの人々に信じられています。しかし世界情勢の変化とともに、市場環境が変化し、天動説だけで値動きを説明することが難しくなっています。

分かりやすければ損をしてもよい、という投資家はほとんどいないと思います。今こそ、七つのテーマに基づいた科学的・論理的な地動説を優先する必要があるのです。

図:FRBの利下げ思惑拡大時の国内外の金(ゴールド)相場への影響
図:FRBの利下げ思惑拡大時の国内外の金(ゴールド)相場への影響
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。