冷める地政学的リスク

著者:近藤 雅世
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 1月3日、米国はイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害し、同時にイラクの民兵組織のトップであるアブ・マハディ・アル・モハンデス司令官も同時に殺害した。こうした民兵組織はレバノン、イエメンなどでイランの代理として戦闘を担っている。

 イラン政府は、8日報復として10発以上の弾道ミサイルを米軍が駐留するイラク国内2カ所の基地に撃ち込んだ後、これで報復攻撃が完了したとの判断を示した。イランから事前に攻撃の通告があったため、この攻撃による基地の被害は軽微であり、米国人、イラク人の死者は出なかった。トランプ大統領はイランが「休戦」を望んでいるようだと語った。 

 9日、ウクライナ国際航空のボーイング737-800型機がイランの首都テヘランを離陸した直後にイランの地対空ミサイル2発によって撃ち落とされた。イラン人も多数乗っており、イラン政府が間違って撃ち落としたことをすぐに報道しなかったことに対して、イラン国内で反政府デモが起こっている。

 驚くべきことにデモ隊はハメネイ師の辞任を要求している。イラン国民は経済封鎖により、相当不満が高まっているようだ。イランは戦争どころではなさそうである。こうした動きは、当初米国対イランの戦争勃発かと思わせた地政学的リスクを急速に冷却している。

 今後、イランと共闘していた米国のIS攻撃はイランの離反と米軍のシリアやイラクからの撤退となれば、クルド人も撤退し、ISは息を吹き返すだろう。イランは米国の中東からの撤退を望んでいるが、それが実現しそうになっている。イランや北朝鮮は核開発を再開し、米国内は国際問題から大統領選の国内問題に焦点を移すだろう。現時点での事前予想ではトランプ大統領が優勢だと言われている。

 

このコラムの著者

近藤 雅世(コンドウ マサヨ)

1972年早稲田大学政経学部卒。三菱商事入社。
アルミ9年、航空機材6年、香港駐在6年、鉛錫亜鉛・貴金属。プラチナでは世界のトップディーラー。商品ファンドを日本で初めて作った一人。
2005年末株式会社フィスコ コモディティーを立ち上げ代表取締役に就任。2010年6月株式会社コモディティー インテリジェンスを設立。代表取締役社長就任。
毎週月曜日週刊ゴールド、火曜日週刊経済指標、水曜日週刊穀物、木曜日週刊原油、金曜日週刊テクニカル分析と週間展望、月二回のコメを執筆。
毎週月曜日夜8時YouTubeの「Gold TV Net」で金と原油について動画で解説中(月一回は小針秀夫氏)。
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