価格と実態のかい離が拡大。将来の期待を今“爆食”する各種市場

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。41.36ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドルインデックスの反落などで。1,887.90ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。21年01月限は14,365元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年01月限は259.8元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで962.75ドル(前日比2.45ドル拡大)、円建てで3,263円(前日比4円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月17日 19時8分頃 先限)
6,350円/g 白金 3,087円/g
ゴム 225.9円/kg とうもろこし 24,910円/t

●WTI原油先物 日足 (単位:ドル/バレル)


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「価格と実態のかい離が拡大。将来の期待を今“爆食”する各種市場」

前回は「先週は一時10%超も上昇。過熱相場のシンボルと化した原油相場」として、先週の各種主要銘柄の騰落率を確認しました。

今回は「価格と実態のかい離が拡大。将来の期待を今“爆食”する各種市場」として、足元の市場全体のムードについて、筆者の考えを書きます。

先週は、バイデン氏の勝利宣言を受け、下落してもおかしくない原油の他、主要株価指数やドルが上昇しました。そして強い不安が生じた時に買われることがある金(ゴールド)が下落しました。

これは、景気過熱時に起きる、熱狂的で盲目的な買いが先行する状態に似ています。

先々週、米大統領選挙の投開票を通じて、安堵(あんど)感、解放感、安心感といった3つプラスのムードが発生しました。これらに、先週のワクチンの報道が加わったことが、熱狂的・盲目的とも言える、過熱感を帯びた状態が発生した原因と考えられます。

一方で、まだトランプ氏が敗北宣言をしていないこと、そしてまだ、ワクチンが一般人に投与されておらず効果が実感できていないことに注意が必要です。

今の相場に、まだ実態が伴っていない可能性があることに、目を向ける必要があります。

一般社会では“バイデン氏が次期米大統領”とみなして先に進んでいますが、大統領選挙の慣例となっている“敗北宣言”が、まだトランプ氏から出ていません。このため、議会で正副大統領が決まる可能性を排除することは、まだできないと、考えらえます。

足元の、熱狂的・盲目的とも言える、過熱感を帯びた状態のもととなっている、バイデン氏の勝利宣言やワクチンに効果がある旨の報道は、いずれも“まだ起きていない、あるいは確定していない事象“です。

一方、トランプ大統領が法廷闘争をしていること、新型コロナの患者数が欧米で爆発的に増加していることは、“現在、進行形中の事象”です。

まだ起きていない、確定していない事象を材料として価格が動くことは、将来の思惑(期待・不安)を、今、織り込んで価格が動いていることとほぼ同義です。

一方、まさに今、進行している事象を材料として価格が動くことは、現実を織り込んで価格が動いていることと同義です。

市場が、将来の事象か現実か、どちらを材料視するのかは、その時の状況次第ですが、どちらかといえば、値動きの根拠としてより強い力を持っているのは、現実、つまり今で言えば、トランプ大統領が法廷闘争をしていること、新型コロナの患者数が欧米で爆発的に増加していることだと筆者は思います。

しばしば、人とは、見たいように見、聞きたいように聞き、感じたいように感じ、信じたいように信じる生き物だ、という話を耳にします。

バイデン氏の勝利宣言に、ワクチンの効果がある旨の報道が加わったことで、どこか、市場には(良くも悪くも)人間味が現れているように、感じます。

下落要因を多分に抱える原油でさえ、大幅上昇するほど、各種市場は将来の期待を今、織り込んでいる可能性があります。

不可思議ともいえる、原油相場の大幅上昇は、市場に、見たくないものに目を向け、聞きたくないことに耳を傾け、感じたくないことに感覚を研ぎ澄まし、信じたくないものを信じることが、必要である、そして、聞こえがいいキーワードに、足元をすくわれてはならないことを、教えてくれていると、筆者は考えています。

図:足元の市場全体のムード


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。