日経平均株価(後編)―投資対象として株価指数を考える【2】―

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◆銘柄入れ替え


 日経平均株価は基本的にダウ・ジョーンズ社が考案したダウ式平均に基づいて算出されますが、構成銘柄の採用株価をそのまま使うのではなく、前編で紹介したように日本独自の「みなし額面」で換算した株価を使います。

 日経平均株価は、東京証券取引所の第1部上場銘柄の中から市場流動性の高い銘柄を中心にセクター(業種)間のバランスに考慮して選定した225銘柄により構成されています。しかし、この225銘柄は常に同じ銘柄であるとは限りません。

 上場廃止や東証1部市場から東証2部市場への「指定替え」などで構成銘柄に欠員が生じる場合には、その都度、銘柄を補充する「臨時入れ替え」が行われます。

 また、日本経済新聞社による「定期見直し」に伴う銘柄入れ替えが、1991年10月から行われています。この「定期見直し」では日本経済新聞社が、構成銘柄の市場代表性を毎年秋に点検し、見直しの結果を事前に公表した上で、原則として10月の第1営業日に入れ替えを実施します。もちろん見直した結果、銘柄入れ替えが行われないケースもあります。
 

◆日本経済新聞社の入れ替え基準


 また、「臨時入れ替え」、「定期見直し」のいずれの場合においても、市場流動性とセクターバランスが考慮されます。つまり、セクター間の銘柄の過不足や、安定的に売買できるような売買の活発さや市場流動性の高さなどがポイントとなり、「定期見直し」の際にはこれらのポイントが低くなった銘柄を除外し、ポイントが高い銘柄を採用することが基本的なルールとなっています。

 この市場流動性は、それぞれ過去5年間の「売買代金(=株価×売買高)」と「売買高当たりの価格変動率{=(高値÷安値)÷売買高}」を用いて計測されます。計測した結果、市場流動性の上位450銘柄(構成銘柄数である225の2倍)を「高流動性銘柄群」とし、「定期見直し」では高流動性銘柄群に含まれなくなった構成銘柄があれば除外されます。一方、高流動性銘柄群のうち上位75銘柄(構成銘柄数である225の3分の1)に含まれる未採用銘柄が新たに構成銘柄に採用されます。

 次にセクターバランスですが、日経業種分類の36業種を6つのセクターに集約し(図1)、このセクター間で「高流動性銘柄群」に属する構成銘柄数がバランスよく配分されるように「定期見直し」では除外・採用を行います。

6つのセクターを構成する日経業種分類(36分類)

出所:「日経平均株価」銘柄選定基準変更のポイント

 構成銘柄数のバランスについては、高流動性銘柄群にあたる450銘柄をセクター分類し、各セクター構成銘柄の半数を「採用妥当数」とします。妥当銘柄数と実際の採用銘柄数を比較して、採用銘柄数が妥当銘柄数より多いセクター(過剰セクター)からは除外し、少ないセクター(不足セクター)には追加採用します。この除外、採用銘柄の選定は市場流動性が高い順に行われます。

 一方で「臨時入れ替え」の場合は、当該除外銘柄と同一セクターに属する銘柄のうち、市場流動性順位が高い未採用の銘柄を補充することを原則としています。

 もっとも、これらはあくまでも選定基準であり、最終決定基準ではありません。最終的には学識経験者や専門家などの意見を得たうえで、日本経済新聞社が構成銘柄の採用・除外を決定します。
 

◆日経平均株価のウェートと寄与度


 こうして決定された日経平均株価の現状をセクター別に見ると、技術セクターが全体の約半数を、次いで消費セクターが全体の約4分の1を占める歪(いびつ)な状態であることが分かります(図2)。ただし、これをもって日経平均株価は偏った株価指数であると結論づけるのは妥当ではなく、むしろこれらのセクターに高流動性銘柄群が偏っている東京株式市場の現状を如実に表したものであると言えましょう。

日経平均株価の業種別ウェート
出所:「日経平均プロファイル」ウェート一覧(CSV)より作成(2021年1月末現在)

 では、日経平均株価の現状を個別銘柄に落とし込んで見るとどうでしょうか。ウェート筆頭のファーストリテイリング <9983>が11.69%と2位以下を大きく引き離して断トツのトップであるほか、上位10社で全体の4割以上のウェートを占めています(図3)。第1回で取り上げたTOPIX(東証株価指数)では、時価総額トップのトヨタ自動車 <7203>でさえ全体の3.20%、上位10社で全体の2割弱しかないことを考えると、日経平均株価は国内主力企業に特化した株価指数であると言えるでしょう。

日経平均株価の構成銘柄(ウェート上位10位)
出所:「日経平均プロファイル」ウェート一覧(CSV)より作成(2021年1月末現在)

 投資家であれば、株式市況の解説などで「ファーストリテイリングが指数を約150円押し上げた」といった日経平均株価に対する寄与度を伝える報道を目にしたこともあるでしょう。日経平均株価はウェートの高い個別銘柄の影響を大きく受けることになりますので、それらの寄与度も高くなります。寄与度の計算方法は以下の通りです。ちなみに、構成銘柄の採用株価は前回に示した通り「株価 × 50円 ÷ 額面価格」ですから、構成銘柄の採用株価の前日比は、「構成銘柄の前日比× 50円 ÷ 額面価格」となります。

寄与度=構成銘柄の採用株価の前日比 ÷ 除数
 

◆指数イベント


また、前回解説したTOPIXと同様に、日経平均株価の銘柄入れ替えに伴う指数イベントは、個別銘柄に売買インパクトをもたらします。ある証券会社によると、ETFを含めて日経平均株価型パッシブ連動資産は19兆円程度と試算され、みなし額面50円換算で各構成銘柄を約2600万株ずつ保有していることになります。

ということは入れ替えとなれば、新規採用銘柄にはみなし額面50円換算で約2600万株の買い需要が発生し、除外銘柄となればみなし額面50円換算で約2600万株の売り需要が発生することになります。こうしたリバランスが理論上、入れ替えの前営業日の終値ベースで実施されます。

もちろん、入れ替えは事前に発表されますので、発表された時点からリバランスの需要を見込んだ思惑売買が激しくなります。また入れ替えの発表前には、様々な投資家がチャンスをものにしようとして、どの銘柄が採用されるのか、目を皿のようにして探す光景が指数イベントの度に繰り返されているのです。
 

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。