[Vol.987] 目指すべきはライフサイクルアセスメント

著者:吉田 哲
原油反落。米主要株価指数の反落などで。64.47ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,769.60ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。21年09月限は13,890元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年06月限は420.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで557.25ドル(前日比13.45ドル縮小)、円建てで1,950円(前日比5円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月30日 17時56分頃 先限)
6,198円/g 白金 4,248円/g
ゴム 246.4円/kg とうもろこし 33,670円/t

●NYプラチナ先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「目指すべきはライフサイクルアセスメント」

前回は、「高騰する温室効果ガス排出権価格」として、前々回述べた国内外の自動車メーカーの方針における2つの抜け道について補足しました。

今回は、「目指すべきはライフサイクルアセスメント」として、これまでの数回で述べた国内外の自動車メーカーの方針における2つの抜け道についてさらに補足します。

特に資本主義社会において、ほとんどの国や企業が目指す「温室効果ガスを削減しながら、発展し続ける(もうけ続ける)こと」を達成するためには、長期的に、「逃げ道」となる緩衝策(バッファ)を使い続けることは、やむを得ない、と述べました。

ある意味、人類が豊かな暮らしを望む以上、石油由来の製品(プラスチックや化学繊維、化学肥料、化石燃料)を使わなくなる日は来ないのかもしれません。

とはいえ、少しでも、「逃げ道」を使わずに、正面から、温室効果ガスの排出量を削減する策が望まれるわけですが、特に自動車業界において、そのカギを握るのが、「プラチナ」なのだと、筆者は考えています。

温室効果ガスの削減が世界規模で実現した場合、各種貴金属市場では、本格的に新しい需要が生まれる可能性があります。自動車業界とプラチナに関する内容は、以下のとおりです。

水素は無色透明ですが、その精製方法によって、便宜上、色分けがされており、温室効果ガスを発生させずに精製された水素は「グリーン水素」、化石燃料を改質し、温室効果ガスを回収した上で精製された水素は「ブルー水素」、化石燃料を改質し、温室効果ガスを排出して精製された水素は「グレー水素」などと呼ばれています。

温室効果ガスを排出させず、同時に、化石燃料を用いずに、精製された「グリーン水素」は、温室効果ガス削減に、最も適していると言えます。このような「グリーン水素」を精製する装置の一つ「プロトン交換膜電解装置」に、プラチナが用いられているとされています。

工場の発電用などに「グリーン水素」を用いれば、サプライチェーン全体を網羅する「Life Cycle Assessment」の達成に近づくことができますし、水素を、発電のための電気分解ではなく燃焼させて走る自動車、水素自動車向けの燃料に用いることも「Life Cycle Assessment」に貢献できます。

また、FCVに搭載された発電装置内の電極部分にプラチナなどの貴金属が用いられていますが、FCVを普及させることで、現在自動車業界が直面しているEV向けの「電池の壁」問題の回避が、期待されます。

現段階では、EV向けの電池を作るため、比較的リスクが高いとされる地域に偏在するレアメタルを調達する必要があり、コストと時間と労力が必要です。この問題を、水素を充填し、その水素分子と大気中の酸素分子を使って発電してモーターを回すFCVや、先述の水素自動車を主流にすることで、一定程度、回避できるのではないか、と筆者は考えます。

また、水素と二酸化炭素からなる合成液体燃料は、大気中の二酸化炭素を吸収する手段として注目を集めています。従来の化石燃料に添加して使用するため、合成液体燃料が普及した場合、ガソリン車やディーゼル車が一定程度、温存される可能性があり、同車に用いられる排ガス浄化装置向けのプラチナやパラジウムの需要が一定程度温存される可能性が高まります。合成液体燃料は「Life Cycle Assessment」の考え方に沿っているため、ガソリンや軽油を用いているからといって、一方的に否定することはできません。

以前の「国内外の自動車メーカーの株価と環境対策」で述べたとおり、長い時間をかけて作られた「パリ協定」は、今後も長きにわたり、世界の温室効果ガス削減の道しるべとなると考えられます。そして、日系自動車メーカーを始め、国内外の自動車メーカーは、どんどんと温室効果ガス削減に本格的にかじを切っていくと考えられます。

同時に、水素社会で重要な「グリーン水素」を精製したり、「Tank to Wheel」よりも広範囲な「Life Cycle Assessment」を達成したり、EV向けの「電池の壁」問題を回避したりするために、プラチナが役立つことが、世界に浸透していくと考えられます。

今後、自動車業界において、「逃げ道」を使わずに正面から、温室効果ガスの排出量を削減する策が講じられれば講じられるほど、「プラチナ」の需要が増加する可能性が増すと考えられます。自動車業界の動向とプラチナの「新しい」関係に要注目です。自動車業界起因の「新しい」需要が喚起されれば、およびその期待が増幅すれば、プラチナ価格は上値を伸ばす、展開になると考えています。

図:「温室効果ガス削減」と期待される各種貴金属の新需要


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。