[Vol.991] 穀物に新需要出現!?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。64.48ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,839.15ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。21年09月限は14,165元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年06月限は418.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで588.45ドル(前日比16.35ドル拡大)、円建てで2,076円(前日比3円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月11日 19時9分頃 先限)
6,434円/g 白金 4,358円/g
ゴム 251.2円/kg とうもろこし 35,890円/t

●シカゴトウモロコシ先物(期近) 月足  単位:ドル/ブッシェル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「穀物に新需要出現!?」

前回は、「なぜ穀物と食用油価格は上昇しているのか?」として、足元の穀物と植物油価格の上昇要因について書きました。

今回は、「穀物に新需要出現!?」として、長期的視点で、穀物に新しい需要が生まれる可能性について書きます。

前回述べた穀物や植物油相場の上昇要因において、筆者が特に注目しているのは、(2)の南米の主要生産国アルゼンチンでの輸出税引き上げ、(4)の緩和マネーの流入、(6)新需要への期待です。このうち(6)は、やや他と性質が異なります。時間軸が長い点です。

「環境配慮」の動きは、コロナ禍がきっかけで急拡大しています。コロナ禍において、環境配慮をビジネスチャンスとする企業が増えていることなどが要因とみられます。大規模な選挙の際、コロナ禍というピンチの中で、環境配慮を前面に打ち出すことで票を稼ぐリーダーもいます。

「環境配慮」をブームにとどまらせず、実際に二酸化炭素の排出量を低減させる具体策を講じる上で、穀物が一定の役割を果たします。米国やブラジルで一般化した、トウモロコシなどの農産物を原料としたバイオ燃料は、二酸化炭素のもととなる化石燃料であるガソリンや軽油に添加して、ガソリンスタンドで販売されています。

パリ協定への復帰を掲げて選挙戦を戦い、就任後即時に復帰を実現したバイデン米大統領は、EV(電気自動車)が一般化するまでの間、オバマ政権時と同様、バイオ燃料の利用を推奨する可能性があると筆者は考えています。

バイデン政権下では、石油業界寄りだったトランプ政権時に話し合いがとん挫したとされる、ガソリンへのバイオ燃料の添加上限である10%を15%に引き上げる議論が、進展する可能性があります。この議論が進展すれば、米国国内のトウモロコシの需要が増加するとみられます。

また、「環境配慮」と穀物相場を語る上で、「代替肉」というテーマも欠かせません。代替肉とは、植物などの動物以外の生物を原料として作られた人工的な肉のことです。世界的に食肉需要は増加する傾向にありますが、その増加分の一部をこのような肉で代替することは、実は、エコに貢献する側面があります。

温室効果ガスは二酸化炭素だけではありません。体積が同じだった場合、二酸化炭素よりも温室効果が高いとされるメタンもまた、温室効果ガスの一つです。そのメタンの主な発生源は農業分野とされています。微生物の活動によって水田の泥から発生したり、家畜の反すう運動(げっぷ)、排泄物から発生したりします。

食肉の需要増加に応じて家畜の頭数が増加すれば、それだけメタンの排出量も増加することになります。肉の需要を満たしながら、メタンの排出量を低減させ、「環境配慮」を実現するための手段に「代替肉」が挙げられると、筆者は考えています。

世界規模の「環境配慮」ブームの中、今後、家畜由来のメタンの排出低減の必要性が高まれば、代替肉の需要は各段に増加する可能性があります。この時、大豆やトウモロコシを中心とした穀物需要の構造が、根底から変わる可能性があると、筆者はみています。

図:穀物相場の長期視点での注目材料


出所:筆者作成

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。