[Vol.1026] 金相場は「鳥の目」で分析すべし

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。72.69ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,771.95ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。21年09月限は12,845元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年08月限は456.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで694.9ドル(前日比13.7ドル拡大)、円建てで2,471円(前日比24円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月29日 19時6分頃 先限)
6,293円/g 白金 3,822円/g
ゴム 230.9円/kg とうもろこし 33,820円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「金相場は「鳥の目」で分析すべし」

前回は、「「金価格、上がるべき」という謎の自信」として、金相場に対するイメージと実際の価格動向の不整合について書きました。

今回は、「金相場は「鳥の目」で分析すべし」として、金とプラチナ相場を分析する上で欠かせないテーマについて書きます。

しばしば、「虫の目」や「鳥の目」という言葉を耳にします。「虫の目」とは、虫のように小さい目で狭い世界を見る「ミクロ」的な視点です。「鳥の目」とは、鳥のように高いところから複数の事象を一度に見渡す「マクロ」的な視点です。

もともと、「虫の目」「鳥の目」の考え方は政治や経営の場で、大局観を見定めるためのツールだったとの説があります。「現代の」金相場分析においては、「虫の目」を持ち込んではならない、「鳥の目」が必要、と筆者は考えています。

前回書いた「なぜ金価格が下がっているのか?」と筆者に問うた彼らの考え方は、どちらを軸にしているのでしょうか? 答えは「虫の目」です。「有事と言えば金高」、「株安と言えば金高」が合言葉だったあのころに醸成された強い自信がそうさせているのかもしれません。

有事が起きれば(起きさえすれば)金価格が上昇する、株が下がれば(下がりさえすれば)金価格が上昇する、という「有事」あるいは「株安」のみに注目して、つまり材料を点で見て、分析を試みているわけです。材料を点で見ているから、イメージと価格動向の間に不整合が生じるのです。

そもそも、イメージと価格動向、どちらが正しいのでしょうか? 数十年前に作られた、一個人のイメージでしょうか、それとも生産者、需要家、投機筋、中央銀行、個人投資家、そして金価格の動向に着目した株式投資家、通貨の投資家、暗号資産の投資家など、多様な投資家による膨大な注文の果てに成立した価格なのでしょうか。答えは火を見るより明らかでしょう。

なぜ「虫の目」を捨て、「鳥の目」で見なければならないのでしょうか?それは、「現代の」金相場に関わる材料が年々多層化し、分析の際、一度に複数の材料を考慮し、それらの影響力を相殺することが求められているためです。

「鳥の目」で見る、とは具体的にどういうことでしょうか? それは、「1.複数の材料が同時に金相場に作用していること」、「2.それらが影響力を相殺しながら、連続的に一つの価格が決まっていること」の2つを意識することです。

これを聞いて「最近の金相場は難しくなってしまったんですね」と述べた人がいました。単純だった(単純すぎた)数十年前に比べて難しくなったことは事実でしょう。しかし、「鳥の目」で見たほうが断然、現代の金相場の動向を説明しやすく、市場と向き合うことが面白くなります。何より、イメージと価格の不整合に苛まれなくなります。

複数の材料とは、金の場合、短・中期的には「有事のムード(資金の逃避先需要)」「代替資産(株の代わり)」「代替通貨(ドルの代わり)」の3つです。中長期的にはこれらに「中央銀行の金保有」「鉱山会社の動向」を含めるとよいと思います。プラチナの場合、短・中期的には「金価格の動向」「株価の動向」の2つです。中長期的にはこれらに「脱炭素の動向」「鉱山会社の動向」を含めるとよいと思います。

図:金とプラチナのテーマ


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。