[Vol.2037] 3,500ドル台到達は有事だけで起きていない

著者:吉田 哲
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原油反発。ウクライナ情勢をめぐる不透明感などで。62.64ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。3,366.65ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。26年01月限は15,675元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年10月限は482.8元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2049.25ドル(前日比3.35ドル拡大)、円建てで10,135円(前日比12円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月20日 17時35分時点 6番限)
15,900円/g
白金 5,765円/g
ゴム 314.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「3,500ドル台到達は有事だけで起きていない」
前回は、「『悪魔の選択』『禁じられた投資』」の意味として、金(ゴールド)投資を巡る悪魔の選択と冷静な投資について、確認しました。

今回は、「3,500ドル台到達は有事だけで起きていない」として、海外金(ゴールド)現物価格の推移(2000年1月5日~2025年8月15日)を、確認します。

現代の金相場が複数の材料がもたらす圧力によって動いていること確認するため、「3,500ドル台到達は有事だけで起きたのか?」という問いを立てます。

以下の図のとおり、3,500ドル台に到達するまでの一連の上昇トレンドは、2000年ごろに始まりました。この道中、細かい上下は発生しましたが、大まかには、25年という長い歳月をかけて、3,000ドルもの上昇を演じたと言えます。

では、25年間、有事が続いたのでしょうか。少なくとも、戦車や戦闘機が頻繁に往来するような、目に見える分かりやすい世界全体に強い不安を振りまく有事は、散発的な発生にとどまり、継続していたとは言えませんでした。

確かに、米同時多発テロ(2001年)やイラク戦争(2003年)、アラブの春(2011年ごろ)、ウクライナ戦争(2022年)、中東情勢の悪化(2023年)などは発生しましたが、世界全体に強い不安が及んだ状態は、長続きしませんでした。

また、メキシコ湾(アメリカ湾)への大規模なハリケーン襲来(2005年)、リーマンショック(2008年)、新型コロナのパンデミック化(2020年)などの広義の有事も発生しましたが、世界全体に強い不安が及んだ状態は、長続きしませんでした。

世界中の株価指数がしばしばショック級の下落に見舞われることもまた、広義の有事に含まれるという考え方もあります。実際にはそのようなショックも散発的であり、世界全体に強い不安が及んだ状態は、長続きしませんでした。

つまり全体的に、世界全体に強い不安を及ぼす有事がこの25年間続いたという事実はないと言えます。それゆえ、有事だけで金(ゴールド)相場が3,000ドルを超える上昇を演じた事実もないと言えます。つまり「3,500ドル台到達は有事だけで起きたのか?」という問いへの答えは、「No」です。

2000年ごろ以降、大規模で分かりやすい有事が長期化しにくくなっている背景には、平和を望む動きが強くなったことや、社会の体制が高度化し、かつ幅広い分野で技術革新が起きたことによって、多方面で有事の影響を軽減する仕組みができたことなどが、挙げられます。

こうした動きは、有事がもたらす不安を小さくしたり、不安を見えにくくしたり、不安を期待でかき消す動きを強めたり、不安を意に介さない(意識的に遠ざける)人を増やしたりしていると、考えられます。

「3,500ドル台到達は有事だけで起きたのか?」という問いを通じて見えてくることは、現代の金(ゴールド)相場は一つの材料だけで動いていない、ということです。有事だけに注目した金(ゴールド)投資は、実態の一部しか把握しない、ある意味、前回述べた「悪魔の選択(≒禁投資)」だと言えるでしょう。

図:海外金(ゴールド)現物価格の推移(2000年1月5日~2025年8月15日) 単位:ドル/トロイオンス
図:海外金(ゴールド)現物価格の推移(2000年1月5日~2025年8月15日) 単位:ドル/トロイオンス
出所:LBMAのデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。