[Vol.1056] 貴金属ごとに用途が異なる点に注目

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。67.16ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,777.45ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年01月限は14,690元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。21年10月限は424.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで771.85ドル(前日比19.65ドル拡大)、円建てで2,683円(前日比2円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月16日 19時21分頃 先限)
6,240円/g 白金 3,557円/g
ゴム 221.7円/kg とうもろこし 34,920円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「貴金属ごとに用途が異なる点に注目」

前回は「4つの貴金属を同時に保有する手法」として、金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウムの4つの貴金属銘柄を対象とし、各貴金属に投資をする金額の配分を考慮しながら、それらを同時に保有する手法について、述べました。

前回に続き今回も、貴金属銘柄で分散する手法に関することついて述べます。今回は「貴金属ごとに用途が異なる点に注目」として、金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウムの4つの貴金属銘柄の用途の差に注目します。

4つの貴金属銘柄の値動きが同一でない最大の理由は、用途が異なる点にあります。リフィニティブの資料をもとにした推計では、以下の通り、金(ゴールド)以外の3つは主に産業用に使われています。特にパラジウムは93.6%が産業用で使われています(景気動向に敏感な銘柄と言える)。また、プラチナが69.1%強、銀は56.0%です。

金(ゴールド)は51.3%が宝飾用に使われています。プラチナは同用途に27.0%、銀は20.6%です。銀とプラチナは宝飾品としての色合いを併せ持っていると言えるでしょう。また、金と銀は、およそ20%、投資用として用いられています。

このように、4つの貴金属の用途は異なります。この点が、値動きに差をもたらす最も大きな要因と考えられます。また、用途が異なる点以外の特徴は、以下の通りです。

・金(ゴールド)
通貨としての色合いが濃く、主要国通貨(主にドル)の代わり、つまり「代替通貨」として注目されることがある、ビットコインなどの暗号資産と代替通貨の側面で競合することがある。また、有事のムードが強まれば資金の投資先として物色されることがある。目先は米国の金融政策に影響を受けやすいか。

・銀
2021年1月から2月にかけて米国で発生した「個人投資家の共闘」で価格が動いた。金(ゴールド)と同様、通貨の側面も残っているため、金価格に連動することがあるが、金よりも変動率が高い傾向がある。脱炭素起因の「太陽光パネル」の電極向け需要拡大が期待される。

・プラチナ
貴金属のリーダー的存在である金(ゴールド)につられて価格が動くことがあるが、長期的にはまだ、2015年9月に発生したドイツの自動車大手のスキャンダル「フォルクスワーゲン問題」の尾を引いており、明確に上昇トレンドに移行できていない(プラチナの産業用の用途が減少する懸念)。しかし、脱炭素起因の「グリーン水素生成装置」や「燃料電池車」の電極向け需要の拡大が期待される。

・パラジウム
値動きが比較的大きい貴金属銘柄。値動きが大きい理由の一つに、市場規模が小さい点が挙げられる。また、「景気動向に敏感な産業用貴金属」の色合いが濃く、金(ゴールド)と連動しないケースがある。

4つの貴金属は、それぞれに特徴があります。用途の違いのほか、それぞれに特徴がある点も、値動きに差をもたらす要因と言えます。特に今後、世界的なブームである「脱炭素」起因の新しい需要が増加する期待が高まっている銀とプラチナは、長期的に、独自の値動きを演じる可能性があります。

一口に貴金属といっても値動きが同一でない、されど貴金属であることに変わりはない。これらの点に着目をすれば、資金配分を考慮することを前提に、自ずと4つの貴金属に分散投資をする意味が感じられてくるのではないでしょうか。

前回のシミュレーションの資金配分(金48%、プラチナ22%、銀19%、パラジウム11%)は、金(ゴールド)をメインにしたものでしたが、金よりもプラチナが安く、かつプラチナに先高観が出た場合、プラチナと金の配分を逆にするのも一計だと考えます。

また、銀が米国の個人投資家の共闘で買われている、主要生産国での供給要害でパラジウムが急騰しているなどの、短期的な事象が発生した場合は、それに応じ、短期的に資金配分を変えてみるもの面白いかもしれません。

これまで、コモディティ(商品)市場全体を使った分散投資ついて3回、その後、貴金属のみで分散投資をすることについて2回にわたり考察を述べました。一連のコラムが皆様の役に立てば、幸いです。

図:4つの貴金属の用途(2018年 筆者推計)


出所:リフィニティブの資料をもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。