[Vol.1067] テーパリングでも金価格上昇はあり得る

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。68.47ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,816.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。22年01月限は13,845元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年10月限は440.8元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで811.5ドル(前日比1.4ドル拡大)、円建てで2,853円(前日比6円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月31日 18時35分頃 先限)
6,409円/g 白金 3,556円/g
ゴム 209.0円/kg とうもろこし 34,100円/t

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「テーパリングでも金価格上昇はあり得る」

前回は「逆転で生じた「負のエネルギー」は膨大に」として、もともと期待されていた事象が一転して懸念に変わったときに起き得る事象について、筆者の考えを述べました。

今回は「テーパリングでも金価格上昇はあり得る」として、現在の金(ゴールド)市場における、複数のテーマの状況について、筆者の考えを述べます。

金(ゴールド)市場には、少なくとも6つのテーマが存在すると筆者は考えています。金市場では、各々のテーマ起因の影響力が相殺されながら、連続的に価格が決まっているわけです。

6つのテーマとは、「有事のムード(資金の逃避先需要)」、「代替通貨(ドルの代わり)」、「代替資産(株の代わり)」、「中国・インドの宝飾需要」、「中央銀行の保有」、そして「鉱山会社の動向」です。

テーパリングの議論は、「代替通貨」における、金市場に下落圧力をかける材料です。FRBの資産買い入れ額が減少 → 社会に放出される資金の量が減少 → ドルの価値が希薄化する懸念が低下 → ドルを保有する動機が強まる → 金(ゴールド)のドルに対する保有妙味が低下、という連想が働くためです。

テーパリングの議論が本格化するまでは、この逆の連想が働き、金相場は上値を追いやすい環境にありました。しかし今は、テーパリングの議論が本格化したため、複数のメディアや専門家が、上記のような連想を根拠に金相場が下落する可能性を指摘しています。

しかし、足元、テーパリングの議論が本格化しても、金相場は反発しています。なぜなのでしょうか? それは、前回述べた「可愛さ余って憎さ100倍」となった、世界各地で同時に発生している負のエネルギーが束になり、巨大な「有事のムード」を醸成し、資金の逃避先需要を増幅しているためだと、筆者はみています。

不確定要素は多々あるものの、「有事のムード」が拡大し、テーパリングによる「代替通貨」起因の下落圧力を相殺して余りある上昇圧力が巻き起これば、短期的には、ドル建てで1,900ドル/トロイオンス、円建てで6,800円/グラムに到達する可能性はあると、筆者は考えています。

材料を俯瞰すること、そして複数のリスクを直視すること。この2つの動作を深めるとき、テーパリングでも金(ゴールド)相場が上昇する可能性が浮かび上がります。

図:金市場における6つのテーマ(イメージ)


出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。