[Vol.1085] なぜ米中は石油の備蓄を放出しているのか?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。ハリケーンがカリブ海に接近していることなどで。76.31ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,742.50ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年01月限は13,840元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。21年11月限は507.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで771ドル(前日比3.2ドル縮小)、円建てで2,768円(前日比11円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月28日 17時59分頃 6番限)
6,226円/g 白金 3,458円/g
ゴム 208.3円/kg とうもろこし 34,460円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「なぜ米中は石油の備蓄を放出しているのか?」

前回は、「現在の石油消費国No1は米国」として、現在の石油消費量No1が米国であることと、その背景について書きました。

今回は、「なぜ米中は石油の備蓄を放出しているのか?」として、米国の石油の戦略備蓄の動向と、減少傾向にある(中国も)背景について筆者の考えを書きます。

戦略備蓄(あるいは国家備蓄)とは、海外から原油や石油製品を輸入できなくなったり、国内で生産ができなくなったりした時に備えて、用意している備蓄のことです。

例えば日本は、今年7月末時点で、合計245日分の備蓄を有しています。(国家備蓄149日分、民間備蓄91日分、産油国共同備蓄6日分 四捨五入のため合計と一致せず)。SPR(Strategic Petroleum Reserve)と呼ばれます。

以下の通り、米国の戦略備蓄は、トランプ政権の時に減少し始めました。世界No1の原油生産国となったことを受け、自国での調達が十分できるとの判断とみられます。新型コロナがパンデミック(世界的な大流行)となり、危機への意識が高まった際、備蓄を積み上げる動きが見られましたが、それも短期間に終わり、再び減少(放出)に転じました。

戦略備蓄の放出には、さまざまな意図があるため、なぜ放出しているのかを特定することは難しいですが、今、このタイミングで、中国の戦略備蓄放出が話題になり、かつ、この数カ月間、米国の戦略備蓄の減少傾向が顕著であることを考えれば、「気候変動」への配慮の可能性が浮かび上がります。

今年1月、バイデン大統領が就任し、米国がパリ協定(温暖化対策の枠組み)に復帰しました。世界全体が地球環境を考える方向に再び向きはじめたことを皮切りに、春に米国が主催して40カ国の首脳が集まった「気候変動サミット」で、各国が、温室効果ガスの排出量の削減目標を強化したり、具体策について言及したりしました。

今年に入り、日に日に、「脱炭素」のムードが高まる中、米国の戦略備蓄の減少の勢いが、増しています。そして足元、中国は、気候変動サミットで温室効果ガスの削減についての具体策を提示した上で、報じられているとおり戦略備蓄を放出しています。米国と中国は今、時を同じくして、戦略備蓄の削減(放出)に取り組んでいるわけです。

「備蓄を持っていること」は、将来的に石油を使うことを念頭に置いていることに他なりません。逆に、「備蓄を放出すること」は、将来的に石油を使わなくなることのアピール、と言えるでしょう。

図:米国の戦略備蓄の推移 単位:千バレル


出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。