原油相場、7年ぶりの高値更新も過熱感なし

著者:菊川 弘之
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 NY原油市場が、7年ぶりの高値を更新中だ。季節的にガソリン需要の終了・暖房油需要が開始するまでの「需要の端境期」で、下向き圧力のかかりやすい時間帯だが、世界的なエネルギー危機が懸念される中、上げ足を強めている。

 アフターコロナに伴う経済再開で原油需要が強まる中、10月4日に開催された「OPECプラス」会合で、協調減産の縮小ペース(日量40万バレル)を緩やかにとどめ、急回復する需要を埋め合わせるには不十分であるとみられている。

 一部で、原油価格上昇で供給拡大ペースを加速させるのではないかとの臆測が流れていたこともあり、需給ひっ迫感が強まった。

 また、従来であれば、価格上昇の際には米シェールオイルが増産していたが、脱炭素の動きに伴う「開発・新規投資不足」もあり、生産量は伸び悩んでいる。

 2021年5月、国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までに世界のエネルギー部門の温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするためのロードマップを公表。世界各国が2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を達成したいのであれば、投資家は新規の石油とガス、石炭供給事業に投資するべきではないとの見解を示した。報告書では、21年時点ですでに決まっている事業以外の「新たな油田やガス田の開発は一切承認しない」ことや、35年までにガソリンエンジン車の新車販売をやめることなどが挙げられた。

 このIEA工程表を受けて、「脱炭素」の動きが加速。欧米主要開発企業が原油開発への投資を縮小している。米国では過去のシェールブームでの投資負担が重く、コロナ禍で赤字が拡大したシェール企業が、財務内容改善のために投資を抑制する動きが強まり、原油価格がいわゆる採算コスト(シェールオイルの生産コストは平均で1バレル=30ドル台半ばで、新規油田開発採算ラインが50ドル前後)を超えて上昇しても、生産増加のペースは鈍い。米原油生産量は、コロナ禍以前よりも日量約200万バレル少ない状況が続いている。

このコラムの著者

菊川 弘之(キクカワ ヒロユキ)

NSトレーディング株式会社 代表取締役社長 / 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)。
GelberGroup社、FutureTruth社などでのトレーニーを経験後、商品投資顧問会社でのディーリング部長等経て現職。
日経CNBC、BloombergTV、ストックボイス、ラジオ日経など多数のメディアに出演の他、日経新聞、時事通信などに連載、寄稿中。
また、中国、台湾、シンガポールなどで、現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。

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