原油相場、7年ぶりの高値更新も過熱感なし

著者:菊川 弘之
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 世界的な電力需要の増加で天然ガスや石炭の相場が上昇していることも、相対的に割安な原油の需要を高めている。米国や欧州市場で天然ガス価格の上昇は先週で一巡しているが、冬場の電力需要の拡大が意識されている。天然ガス価格の高騰が、原油需要を日量50万バレル前後押し上げるとの観測も出ている。

 中国では、関係が悪化しているオーストラリア産石炭輸入禁止を続ける中、石炭価格高騰に加え、温暖化対策で石炭火力発電所の発電を抑制したため、全国の約3分の2の地域で電力供給の制限が実施される異常事態となっている。習近平国家主席は昨年9月、国連総会の一般討論で、2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ、2060年までにゼロにすることを目指すと表明。2022年2月の北京冬季五輪に向けた「青空」確保対策を緩める訳にもいかず、早期に電力不足が解消する目途は立っていない。今年に入り国内石炭供給の30%を賄っている山西省で、洪水により炭鉱682のうち60が閉鎖。中国の経済成長を脅かすエネルギー危機が一段と悪化している。

 欧州でも天然ガス価格が高騰している。欧州各国が石炭や石油よりも温暖化ガスの排出が少ない天然ガスへの切り替えが主因だ。風力発電などの再生可能エネルギーの不安定さを補う形で天然ガス需要が増加したことも一因。

 また、9月に完成したロシア産天然ガスをドイツに運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」、も、難航・長期化の様相を見せているドイツの連立交渉次第では、パイプライン実働が停滞する可能性も浮上している。こういった中、天然ガスや石炭から原油への需要シフト・回帰が起きている。

このコラムの著者

菊川 弘之(キクカワ ヒロユキ)

NSトレーディング株式会社 代表取締役社長 / 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)。
GelberGroup社、FutureTruth社などでのトレーニーを経験後、商品投資顧問会社でのディーリング部長等経て現職。
日経CNBC、BloombergTV、ストックボイス、ラジオ日経など多数のメディアに出演の他、日経新聞、時事通信などに連載、寄稿中。
また、中国、台湾、シンガポールなどで、現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。

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