アーク・インベストメントのキャシー・ウッド(後編)―デリバティブを奏でる男たち【13】― 

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◆オープン・スタイル

 キャシー・ウッドがアーク・インベストメントを設立した当初は個人資産しか資金がなく、投資スタッフもほとんどがウォール街で働いた経験がない、もしくは少ない、あるいはM.B.A(経営学修士)も持っていないようなミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた世代)の比較的若い人たちでした。しかし、経験や資格よりも彼らが異なる業界の専門家であることを、彼女は非常に重要なポイントとして考えていたようです。

 なぜならば、ウッドは投資対象を考える際、特定の業種を専門とするアナリストが無視するような、複数の業界にまたがる企業に注目していたからです。確かに異なる分野にまたがることで、新しい発見や画期的な仕組みが生み出されることは、日常業務の中でもよくあることです。ただ、彼女はそここそがイノベーション(技術革新)が起こる場所と考えて投資を行っていました。

 調査体制も非常にオープンであり、調査チームが科学者やエンジニア、医師、その他の専門家と研究を共有し、協力するよう仕向けました。また、同社が毎週実施しているブレーン・ストーミング・セッションでは、業界の専門家やライバル投資家を含む誰もが参加できるといいます。このように彼女は、あらゆる人々からアイデアを得ることができる投資プロセスと文化を作りたいと考えていました。
 

◆救世主、ビル・フアン

 また、敬虔(けいけん)なクリスチャンであるウッドは、同じく敬虔なクリスチャンであるアルケゴス・キャピタル・マネジメントのビル・フアンと教会を通じて出会いました。そして、2013年に投資アイデアを交換し、ウッドが彼に映像配信会社への投資を推薦した後、ファンはネットフリックス<NFLX>に投資したそうです。
2013年に上昇するネットフリックス(ドル)
※2013~2014年の日次データ

 これが縁でフアンはアークが最初に設立した4つのETF(上場投資信託)に資金提供しました。ウッドによると、当時はETFの資金を確保するのが難しい時期であったため、フアンの助けが重要であり、感謝しているとしています。

 ビル・フアンについては『デリバティブを奏でる男たち』の第1回で取り上げました。およそ200億ドルもの巨額損失の後、アルケゴスを清算するという選択肢が残されているようですが、現時点では何も決まっておらず、アークのETFを今も持ち続けているかは不明です。

アルケゴス・キャピタルのビル・フアン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【1】―
https://fu.minkabu.jp/column/926

アルケゴス・キャピタルのビル・フアン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【1】―
https://fu.minkabu.jp/column/932

 

◆8本のアークETF

 さて、ここでは破壊的イノベーション(技術革新)とテクノロジーに注力するアークのETFをご紹介します。同社は設立のときに、ほぼ同じタイミングで4本、その後2021年までに追加で4本、都合8本のETFを上場させました。

 まず旗艦ファンドであるアーク・イノベーションETF<ARKK>は産業イノベーション、ゲノミクス(遺伝情報の総合的な解析)、Web x.0(次世代のウェブ利用法)といった3つの分野で、破壊的イノベーションの恩恵を受ける銘柄を投資対象としています。

 具体的にはEV(電気自動車)メーカーのテスラ<TSLA>、医療ロボットメーカーのインテューイティブ・サージカル<ISRG>、中国の電子商取引最大手のアリババ・グループ・ホールディングス(阿里巴巴集団)<BABA>などです。
アーク・インベストメントのETF


 次に純資産額が多いアーク・ゲノミック・レボリューションETF<ARKG>は、ゲノムやバイオ銘柄をテーマとし、それらイノベーションの恩恵を受ける銘柄を複数のセクターや地域にまたがって投資します。

 そして、アーク・ネクスト・ジェネレーション・インターネットETF<ARKW>は、IoT(モノのインターネット)、クラウド(インターネット環境でコンピューティングサービスを利用すること)、デジタル通貨(暗号資産や中央銀行デジタル通貨CBDCなど)、ウェアラブル・テクノロジー(身に着けられる端末機器)など、次世代のネット関連銘柄に投資します。また、アーク・オートノマス・テクノロジー&ロボティクスETF<ARKQ >は、自律型技術およびロボットといったテーマに関連する銘柄へ投資します。

 2016年に上場させた3DプリンティングETF<PRNT>は、3Dプリントおよび同関連銘柄に投資し、2017年に上場させたアーク・イスラエル・イノベート・テクノロジーETF<IZRL>は、イスラエルにおいて破壊的イノベーションに関わる銘柄に焦点を当てて投資します。

 2019年に上場させたアーク・フィンテック・イノベーションETF<ARKF>は、金融業界の仕組みを変えるフィンテック(金融技術)に沿った新しいサービスなどを提供する企業に投資します。

 最後に、2021年に上場させたアーク・スペース・エクスプロレーション&イノベーションETF<ARKX>は、米国を中心に世界の宇宙探査やイノベーションの恩恵を受ける銘柄を対象に投資します。
アーク・インベストのETF価格推移(ドル)
※日次データ

 直近の上場ETFは別にして、いずれも基準価額は上昇しており、特に旗艦ファンドであるアーク・イノベーションETFとアーク・ネクスト・ジェネレーション・インターネットETFは2014年の上場時に20ドル台でしたが、2021年2月にはそれぞれ150ドル台、180ドル台と約4年4カ月で7~9倍になりました。
 

◆注目に値する大胆な予測

 これらのETFは当初はさほど話題になっていませんでしたが、キャシー・ウッドの注目に値する大胆な予測で一躍、有名になります。彼女は2018年2月のCNBCのテレビ番組で、当時に345ドルだったテスラの株価(グラフの株価は分割を遡及修正)が5年後に「4000ドルに達すると信じている」と信じられないほど大胆な予測をしました。

 そして、テスラは2020年8月に5分割した後、2021年1月には800ドルに達しました。5分割を考慮すれば事実上4000ドルになります。しかも、5年後でなく、大胆予測のおよそ3年後の出来事でした。
大胆な予想通りになるテスラ(ドル)
※日次データ

 さらに彼女は2020年11月に、またしても大胆な予測をします。それは当時に2万ドルにも達していなかった暗号資産のビットコインが、次の半減期(2024年春頃の見込み)を迎えた後に50万ドルになり得る、との予測でした。


ビットコイン(ドル)は大胆予測通りか?
※日次データ

 ブロックチェーン(分散型台帳)をベースとするビットコインは、すべての取引記録をブロック(取引台帳)に追記するマイニングによってビットコインが成功報酬としてもらえます。しかし、マイニングによって21万ブロックが生成されるたびに成功報酬は半減します。この半減期を迎えるたびにビットコインの価格は急騰してきました。

 2020年3月に一時5000ドル割れとなったビットコインは、その2カ月後に3回目の半減期を迎え、2021年4月には6万ドルを超えました。さて、次の半減期の後、果たしてビットコインはキャシー・ウッドが予測したように50万ドルになるのでしょうか。今から楽しみです。(敬称略)

このコラムの著者

若桑 カズヲ(ワカクワ カズヲ)

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。