[Vol.1175] 消費、在庫、OPECが原油100ドル説を支える

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。90.92ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反発などで。1,807.35ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年05月限は14,775元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年04月限は554.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで769.3ドル(前日比0.4ドル拡大)、円建てで3,039円(前日比18円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(2月10日 18時46分頃 6番限)
6,808円/g 白金 3,769円/g
ゴム 253.9円/kg とうもろこし 42,630円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「消費、在庫、OPECが原油100ドル説を支える」

前回は、「米大手金融機関は原油100ドルを予想」として、米大手金融機関が公表している原油相場の見通しについて書きました。

今回は、「消費、在庫、OPECが原油100ドル説を支える」として、前回述べた「原油100ドル説」の根拠とされる「消費」「在庫」「OPEC」の3つの動向について述べます。

石油の需要は、世界的に回復傾向にあります。この点は、足元の原油相場の上昇要因であり、同時に、「原油100ドル説」を支持していると言えます。(「消費」は根拠あり)

在庫は消費の増加を反映し、減少傾向にあります。需給バランスが引き締まっていることを示し、足元の原油相場の上昇要因と言えます。この点も「原油100ドル説」を支持していると言えます。(「在庫」も根拠あり)

では、3つ目の根拠「OPEC」についてはどうでしょうか。現在、OPEC加盟国のうち10カ国と非加盟国10カ国の合計20カ国は、生産量の上限を決め、原油の生産を行っています(減産期間であるため)。

以下のグラフのとおり、上限を上回らない「計画的な増産」を行っています。

OPECには現在13カ国が加盟していますが、イラン、リビア、ベネズエラの3カ国は上限を決めた生産は行っていません。(減産免除)

しばしば、生産量の上限(required production)が「生産目標」と表現されることがあります。この量は、「生産しなければならない量」ではなく、「これを超えて生産してはならない量」と、とらえるべきだと筆者は考えています。

生産するよう要求されている(required)量ではなく、これを上限に生産するよう要求されている(required)量、ということです。

現在、OPECプラスは「減産」期間中にあり、生産量を減らすことを念頭に置いています。減産に参加する20カ国、いずれにも減産の基準となる「参照量(reference production)。おおむね2017年10月の生産量」が設定され、その量から毎月どれだけ生産量を減らすかを協議しています。

生産目標(生産しなければならない量)なのであれば、OPECプラスが減産を実施していることと矛盾します。毎月彼らが協議しているのは、生産しなければならない量ではなく、上限とする量です。

各国ごとの生産量の上限と2022年1月の原油生産量の差分を確認すると、上限を上回った国(約束を破って増産をしてしまった国)は、イラクやカザフスタンなどでした。(さしずめ「抜け駆け増産」、「ヤミ増産」でしょうか)

上限を下回った国は、ナイジェリアやアンゴラ、クウェート、ロシアやサウジアラビアの名前もありました。こうした国は「もう少し生産できたのに生産しなかった国」です。

「もう少し生産できたのに生産しなかった国」は、2つのパターンに分かれます。1つ目は、「生産したくてもできなかった国」、2つ目は、「自らの意思であえて少なく生産した国」、です。

石油開発に対する「投資不足」が指摘されている国は、前者の「生産したくてもできなかった国」です。報じられているとおり、ナイジェリアやアンゴラなどがあてはまると、みられます。

一方、「自らの意思であえて少なく生産した国」は、ロシアやサウジなどがあてはまると考えられます。昨年夏以降、OPECは何度か主要な消費国から増産を要請されましたが、計画以上の増産をしませんでした。

「できるのに増産しない」。ここには「意思(思惑)」があります。

予定を超えた過剰な増産をしないのは、原油相場を下落させないため(経済的なダメージ回避するため)、安易に消費国になびいたというイメージを醸成しないため(資源国としての発言力を維持するため)、などの思惑があると考えられます。

また、サウジが他国の分をカバーして生産量を調整しないのは、現在の減産には、全体として減産を順守するのではなく、個別の国ごとに、減産を順守しなければならないルール(個別に埋め合わせを行うルール)があるためです。

「投資不足」と「意思(思惑)」。文脈は違えども、OPECプラスは全体として、上限に届かない生産を続けています。この点もまた、足元の原油相場の上昇要因と言え、同時に「原油100ドル説」を支持していると言えます。

図:OPECプラス(減産実施20カ国)の原油生産量と生産量上限の目安(百万バレル/日量)


出所:ブルームバーグのデータおよびOPECの資料をもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。