[Vol.1202] 原油:ロシア分を補うことは難しい

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。115.56ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年利回りの反発などで。1,940.00ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年05月限は13,465元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年05月限は723.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで921.1ドル(前日比4.8ドル拡大)、円建てで3,667円(前日比18円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月24日 17時49分頃 6番限)
7,570円/g 白金 3,903円/g
ゴム 254.2円/kg とうもろこし 52,050円/t

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「原油:ロシア分を補うことは難しい」

前回は、「金:長期視点の4つの上昇要因が浮上」として、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとした発生したとみられる、長期視点の金(ゴールド)の上昇要因について書きました。

今回は、「原油:ロシア分を補うことは難しい」として、西側諸国の制裁により、世界全体としてロシア産原油の供給が減少する見通しとなる中、その減少により発生する不足分を補うことができるかどうかについて、筆者の考えを書きます。

目下、米国と欧州の一部の国が、ロシア産の原油を買わないことを明言しています。米国はすでに輸入を停止し、英国は年末までに段階的に停止するとしています。

ロシアは世界の原油輸出シェア2位です。ロシア産の原油の半分以上が、欧州向けです。欧州の次に中国(欧州+中国でおよそ8割)、ロシアに対して強固な姿勢で制裁を科している米国は1%です。(2020年の数量ベース。BPのデータより)

仮に、西側の制裁が世界に完全に浸透し、ロシア産原油が世界の市場から消えた場合、現在ロシアから原油を輸入している国々は、合計日量527万バレルもの原油を新たに調達しなければなりません。これは1年間に換算すると19億2,355万バレルに相当します。欧州分はその53%にあたる10億2,253万バレル(日量280万バレル)です。

例えば、現在米国が有する原油在庫は、商業在庫4億1,620万バレル、戦略備蓄5億7,770万バレルを足した、9億9,392万バレルです(EIA(米エネルギー情報局)のデータより 2022年2月時点)。仮に米国が原油在庫を全て欧州に放出した場合、約1年間、欧州はロシア産を全く買わなくても、持ちこたえられる計算です。

とはいえ、油種の違いもさることながら、米国がすべての原油在庫を放出することは考えにくいでしょう。やはり、日量527万バレル、少なくても欧州分(日量280万バレル)に相当する量の増産が必要でしょう。

以下は主要産油国の過去5年における最大生産量(月間ベース)と、直近(2022年2月)の原油生産量の差(現実的な増産余力)です。主要産油国が直近で行った最も大規模な生産を行うことで、ロシア産原油の不足分を補うことができるかを、調べました。

減産実施国(組織のルール上、生産量を自由に増加させにくい国)、制裁を受けている国(自らの意思で生産量を増やせない国)、超重質油を生産する国(精製時にコストが多めにかかり、現実的な代替になりにくい国)を除いた、有力国7カ国の現実的な増産余力は日量331万バレルでした。

この量ではロシア分全量(日量527万バレル)を補うことはできません。欧州分のみ(日量280万バレル)であれば補うことは可能です。OPECプラスが追加の増産をしない理由については以前の「[Vol.1199] OPECプラスに増産は期待できない」をご参照ください。

ロシアの原油生産量の規模は大きく、それを在庫の取り崩しや増産で補うことは、難しいと筆者は考えます。米国のシェールオイルに期待が集まっていますが、下図は、主要メディアで報じられた日量100万バレル増産を加味しています。

[Vol.1200] ウクライナ危機は次のステージに入った」で述べたとおり、ウクライナ情勢は新しいステージに入ったと考えられます。このステージでは、ロシアの不足分を補えないかもしれない、という懸念が、原油価格を押し上げる場面が散見される可能性があります。足元の原油価格再反発もその一端である可能性があります。

図:現実的な増産余力(直近5年間最大生産量ー直近生産量) 単位:千バレル/日量


出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。