[Vol.1285] 価格推移に見る「ドクター・カッパー」の危うさ

著者:吉田 哲
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原油反発。ロシア産エネルギーの供給懸念などで。98.58ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反発などで。1,720.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。22年09月限は12,150元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年09月限は678.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで845.4ドル(前日比4.4ドル縮小)、円建てで3,754円(前日比3円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(7月26日 17時55分頃 6番限)
7,531円/g
白金 3,777円/g
ゴム 238.8円/kg
とうもろこし 45,530円/t
LNG 4,150.0円/mmBtu(22年6月限 4月7日午前8時59分時点)

●NY銅先物(期近) 日足  単位:ドル/ポンド
NY銅先物(期近) 日足  単位:ドル/ポンド

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「価格推移に見る「ドクター・カッパー」の危うさ」

前回は、「なぜ銅(カッパー)は「医者」と呼ばれるのか?」として、「ドクター・カッパー」について、述べました。

今回は、「価格推移に見る「ドクター・カッパー」の危うさ」として、「ドクター・カッパー」の価格推移にみられる危うさについて、筆者の考えを述べます。

「何が」ドクター(医者)なのでしょうか。「銅の価格動向」です。銅そのものや銅の性格がドクターなのではありません。

以下のグラフのとおり、銅の価格動向はリーマンショックを機に、大規模な底値切り上げと、価格のブレ幅拡大が起きています。この二つの劇的な変化は、銅の金融商品化や、主要国で断続的に行われている大規模な金融緩和などが原因とみられます。

「ブレ幅を拡大させた(ご乱心)ドクター」。それが現在のドクター・カッパーです。これまで何度も世界的な景気鈍化時に下落し、「ドクターぶり」を発揮してきましたが、現在は診断が極端になっている感が否めません。

また、世界の景気動向を診断するのであれば、銅価格が急上昇した際、それが景気好転の前触れになるはずですが、銅価格が「史上最高値」を更新した今年3月、世界の景気が好転する気配はあったのでしょうか。

ウクライナ危機勃発、高インフレ深刻化、コロナ感染拡大収まらず、米中対立激化などに支配され、世界の景気が好転する気配はありませんでした。

この点からうかがえる「銅価格は、景気動向だけで動いているわけではない」という視点は、非常に重要です。銅に限らず、コモディティ(商品)価格を景気動向の「指標」と見ることには、危うさが潜んでいます。

コモディティ価格は、ざっくり言えば、価格を上げたい生産者と価格を下げたい消費者の思惑の均衡点です。「ドクター・カッパー」の議論は、「景気動向」だけ。つまり、消費者サイドの議論にすぎません。(50点。生産者サイドの話を考慮して100点に近づく)

消費者サイドの側面だけを切り取って議論するのは、不平等です。コモディティ価格を指標とみなす「ドクター・カッパー」の考え方には、こうした問題点が潜んでおり、注意が必要です。

コモディティ価格は「指標」ではなく、コモディティの都合で変動し得る「自我があるもの」と認識する必要があるでしょう。

図:銅価格の推移(LME現物 月間平均) 単位:ドル/トン
図:銅価格の推移(LME現物 月間平均) 単位:ドル/トン

出所:世界銀行、QUICKのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。