[Vol.1324] 「インフレの回転ケージ」から抜けられない西側

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。85.72ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。1,680.95ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年01月限は13,230元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年11月限は660.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで746ドル(前日比2.3ドル縮小)、円建てで3,623円(前日比1円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月21日 17時49分頃 6番限)
7,697円/g
白金 4,074円/g
ゴム 227.3円/kg
とうもろこし 50,900円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「『インフレの回転ケージ』から抜けられない西側」

前回は、「CPI発表から12時間の各種銘柄の変動率を確認」として、主なウクライナ関連銘柄の、CPI発表後の価格推移を確認しました。

今回は、「『インフレの回転ケージ』から抜けられない西側」として、西側がインフレ対策に躍起になり、さまざまな負の影響を生み出していることについて書きます。

回転ケージは、ハムスターのような小型の動物を飼う際に用いられる、動物向けの運動器具です。マウスやラットの運動機能を測定する研究用の回転ケージもあります。

ケージの中で走り続けるハムスターやラットは、どれだけ走っても移動距離はゼロで、どこにも移動していないのと同じです。速く走った場合や、径の大きいケージを回転させた場合は、運動量(動物もケージも)が大きくなります。

今、ロシアやロシアの同盟国と対峙(たいじ)する西側諸国は、インフレという名前の回転ケージの中で走っていると、筆者はみています。いくら走っても移動距離がゼロ(ウクライナ危機対策(≒インフレ根治対策)ほぼゼロ)で、インフレ激化にともない回転ケージの径が大きくなっており、運動量が増大しています。

運動量が増加しているわけですが、そもそもこの回転ケージのテーマは「インフレ」ですので、回転させればさせるほど、大衆の不安が増大したり、中央銀行が利上げに固執したりして、負の影響が大きくなります。

その負の影響とは、ウクライナ放置(≒インフレ放置)、世界分断(西側内でも)、中国・ロシア影響拡大、エネルギー・電力価格高、地政学リスク増、景気悪化などです。

FRBやECB(欧州中央銀行)が利上げに躍起になったり、西側の大衆がインフレを深く心配したりすることで、回転ケージが勢いよく回転し、負の影響が拡散しているとすら言えるでしょう。こうなれば、インフレの回転ケージは、リスク製造機です。

西側がこの回転ケージに入り、走り続けているのは、FRBが、インフレが長期化することを予想できず負い目を感じて利上げに盲目的になっていることのほか、ロシアが西側を回転ケージに押し込んだことも大きいでしょう。

西側は民主主義を旨とする国のグループです。一定周期でリーダーは選挙戦を戦わなくてはなりません。選挙で勝つためには有権者の心を射止めなければなりません。そのためには、有権者の心配を取り除かなくてはなりません(そこに勝機がある)。足元、有権者が最も心配していることは、インフレ(物価高)です。

インフレが有権者の最大の心配事なのであれば、選挙で勝利したいリーダーは、根本原因(海の向こうの戦争。ウクライナ危機)はさておき、目の前のインフレを沈静化することに腐心せざるを得ません。

ロシアは、ウクライナ危機を勃発させ、「買わない西側・出さないロシア」の状況をつくり出しました。彼らがもくろんだ通り、エネルギーや農産物の価格が高騰し、インフレが起きた。

そして、西側ではインフレで大衆の不満が爆発し、リーダーたちの視点がウクライナから自国へと移った。そしていよいよ、インフレの回転ケージが勢いよく回り始め、多くの負の影響が拡散しはじめた。

西側がインフレの回転ケージから降りられないのは、選挙で勝利したいリーダーたちが、大衆になびいていることが大きいでしょう。西側で起きている大衆迎合が、ウクライナ危機(もちろんインフレも)を長期化させている大きな一因と言えるでしょう。

西側の大衆は、武力攻撃に反対しつつ、インフレ沈静化を要求しています。これでは多数の負の影響の根源であるウクライナ危機を沈静化できないでしょう。ロシアは確かに悪い。しかし、西側のリーダーと大衆にも、改善の余地があると言えるでしょう。

図:「インフレの回転ケージ」の変化
図:「インフレの回転ケージ」の変化

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。