[Vol.1325] OPECプラスの巧みなアナウンス効果が怪しく光る

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。83.25ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,668.60ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年01月限は13,200元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。22年11月限は654.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで763.15ドル(前日比2ドル縮小)、円建てで3,694円(前日比72円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月22日 13時22分頃 6番限)
7,700円/g
白金 4,006円/g
ゴム 227.8円/kg
とうもろこし 50,290円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「OPECプラスの巧みなアナウンス効果が怪しく光る」

前回は、「『インフレの回転ケージ』から抜けられない西側」として、西側がインフレ対策に躍起になり、さまざまな負の影響を生み出していることについて書きました。

今回は、「OPECプラスの巧みな『アナウンス効果』が怪しく光る」として、OPECプラス(減産参加20カ国)の原油生産量と生産量の上限について書きます。

前回述べたとおり、西側は「インフレの回転ケージ」を勢いよく回転させています。そしてそれを横目に、ロシアは産油国との関わりを深めています。しばらく西側が回転ケージから降りてこられないと踏んでいるのでしょうか(少なくとも米国は、中間選挙まで大衆迎合にならざるを得ない)。

OPECプラスは、サウジアラビア、イラク、UAE、クウェート、アルジェリアなどのOPEC(石油輸出国機構)加盟国13カ国と、非加盟国であるロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、マレーシアなど10カ国、合計23カ国で構成されています(2022年9月時点)。

原油生産シェアは23カ国合計でおよそ58%(2022年8月時点 ブルームバーグのデータより)と大きく、OPECプラスの会合での決定事項や彼らが公表する見通しには、一時期に比べて低下したものの、神通力はまだ残っています。

彼らは現在、生産量の上限を超えないようにする、いわゆる生産調整をおこなっています。厳密には、生産調整をおこなっているのは、23カ国のうち、制裁や政情不安起因で生産量が急変している3カ国(イラン、リビア、ベネズエラ)を除いた20カ国です。毎月会合を開き、翌月の生産量の上限を決定しています。

今月、彼らが「減産」を実施すると報じられました。会合後、市場では「OPECプラス+減産=需給引き締まり」という式が成り立ち、原油相場が反発する場面がありました。決定事項が、原油生産量を減らすことではなく、生産量の上限を引き下げることであるにもかかわらず、です。

以下は、20カ国の「生産量の上限」と「実際の生産量」の推移です。彼らは先々週の会合で、わずか10万バレル/日量、生産量の上限を引き下げることを決定しました。このことを報道は「減産」としたのです。グラフの通り、「生産量の上限」と「実際の生産量」は、最近特に大きく乖離(かいり)しています。

一方、実際の生産量はグラフのとおり少しずつ増えてきています。つまり、増産をしているのです。「減産」という、報道を通じた「アナウンス効果」で原油価格が反発色を強める中、増産をしているのです。

彼らは今、巧みに「アナウンス効果」を利用して、利益を拡大させています(単価上昇と数量増加の両方を確保)。こうした状況を、OPECプラスの国々は、好ましいと考えているでしょう。産油国にとって、原油価格上昇と増産を同時に実現できることは、収益を最大化することにつながるからです。

西側(回転ケージで走行中)が提唱する「脱炭素」は、超長期視点で、産油国の収益を奪います。いずれ奪われるのであれば、今のうちに、つかの間の二重取り(原油価格上昇と増産)を享受したいと思うのは、自然な流れでしょう。

「脱炭素」という収益減少要因を振りかざす「西側」を共通の敵とし、今、OPECプラスはロシアやサウジを中心に、結束を固めている可能性があります。だからこそ、「アナウンス効果」と、(ほとんど報じられない)「増産」を同時進行させることができるのでしょう。

西側が回転ケージで走行している間に着々と、原油を巡る、西側と相反する世界が大きくなってきています。そこにもロシアが深く、関わっています。

図:OPECプラス(減産参加20カ国)の原油生産量と生産量の上限 単位:百万バレル/日量
図:OPECプラス(減産参加20カ国)の原油生産量と生産量の上限 単位:百万バレル/日量

出所:OPECの資料およびブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。