[Vol.1361] 市場は「ドル安」の兆しを創造した

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。86.81ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,780.35ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年01月限は12,685元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。23年01月限は640.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで754ドル(前日比0.4ドル縮小)、円建てで3,526円(前日比3円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(11月16日 17時05分頃 6番限)
7,952円/g
白金 4,426円/g
ゴム 218.3円/kg
とうもろこし -円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「市場は『ドル安』の兆しを創造した」
前回は、「今は株・有事よりも『ドル』の動向が重要」として、ドル指数、ドル建て金(ゴールド)、CRB指数の価格推移を確認しました。

今回は、「市場は『ドル安』の兆しを創造した」として、先物市場のFF金利見通し(市場予想平均)を確認します。

前回、11月に入り、株高の中、金(ゴールド)相場が反発していることを確認した上で、その背景に「ドル安」が存在すると書きました。

「ドル安」は、ドル建てのコモディティ(国際商品)の価格上昇要因の一つです。ドル安時、ドル建ての商品が、他の通貨建ての同一商品と比べて、割安に映るためです。

前回のグラフ「ドル指数、ドル建て金(ゴールド)、CRB指数の推移」で、11月に入り、金(ゴールドと同様)コモディティ市場の総合的な値動きを示す指数の一つ、CRB指数も反発していることを確認することができます。

また、金(ゴールド)は、ドルと同様、「世界のお金」という側面を持っています。貿易の決済時に最も多く使われる通貨「米ドル」と、世界各地でお金として用いられてきた歴史を持つ「金(ゴールド)」。片方に注目が集まる時、相対的にもう片方の注目度が下がることがあります。

「ドル安」は、「代替通貨」に関わる二つの経路(他通貨建て金(ゴールド)との比較、米ドルとの比較)で、金(ゴールド)相場に上昇圧力をかける要因であると、言えます(逆にドル高時は、二つの経路で下落圧力がかかる)。

こうした背景があるため、足元、株高でも金(ゴールド)相場は反発しているのです。(株高(代替資産由来の下落圧力)よりも、ドル安(代替通貨由来の上昇圧力)の方が、影響が大きい。ウクライナ危機由来の有事ムードも一定の上昇圧力をかけている)

その「ドル安」はどこからきたのか、引締め一辺倒の米国の金融政策に対抗するように、「市場が緩む兆しを創造」したことが大きいと、考えられます。

以下のグラフは、先物市場をもとに作られたFF金利(Federal Funds Rate米国の代表的な短期金利。米国の政策金利)見通しです。2022年12月から2024年1月までの、合計10回のFOMC(米連邦公開市場委員会)時点での金利見通しの推移を示しています。そしてその上限が、「ターミナルレート(金利上昇時の最高到達地点)」の見通しです。

利上げは来年5月まで続くものの、2022年6月ごろから行われてきた「三倍速(通常の0.25%の3倍にあたる0.75%)」と揶揄(やゆ)される急速な利上げが起きないことや、来年半ばにターミナルレートが下がること、来年後半に利下げが始まることなど、米国の金融政策が緩むことが、「見通されて」います。

米CPI(消費者物価指数)が、事前予想よりも弱かったことを受け、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ方針が緩むとの見方が強まり、「見通しの緩和」が、さらに、進みました(CPI発表前の11月9日よりも発表後の10日のほうが緩和的)。先日のCPIを機に楽観的見通しが加速したと言えます。

「米国の金融政策見通しが緩和方向に加速していること」が、ドルの先安観を強めているとみられます。そしてそれを受け、金(ゴールド)相場の反発傾向が鮮明になっています。今後もこのような「見通しの緩和」が進めば、ドルのさらなる下落、同時に金(ゴールド)相場のさらなる反発が起きる可能性があります。

図:先物市場のFF金利見通し(市場予想平均)
図:先物市場のFF金利見通し(市場予想平均)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。