米覇権・ドル基軸通貨崩壊のターニングポイント

著者:菊川 弘之
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 ロシア・ウクライナ戦争にも仲介に動いているのは中国で、英米は武器を売るのみ。次の覇権国家を考え、中国側にポジションを傾ける国は、急速に増えそうだ。昨年12月7日の習近平によるサウジ訪問で、これまでのペトロダラー体制からペトロ人民元体制への方向性が決まり、ロシアに対する制裁で新G8や、グローバルサウス中心にドル離れが加速しそうだ。行き当たりばったりの米外交に比べ、長期戦略をベースに布石を取り続ける中国外交は1枚も2枚も上手だ。

 NY金は大幅続伸した。米債務上限問題を控える中、米中堅金融SVBファイナンシャル・グループの傘下銀行が10日に経営破綻し、金融システムに波及するかもしれないとの懸念から、安全資産とされる金に買いが向かった。

 国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、22年のロシアの個人の地金・金貨の純購入量は25トン。前年比4.7倍になり、購入量・伸び幅とも比較可能な10年以降で最高だった。西側からの経済制裁として、ロシアの新産金は主要な国際取引網から排除された。ロシアが金を売却し、ドルやユーロなど外貨を獲得できないようにする狙いがあったが、完全に国際市場から締め出された訳ではない。ロシア産の金は制裁で国際市場で売却しにくくなっているものの、中国は購入を続けている。中国税関総署によると、22年のロシアからの金輸入額は約3.9億ドル。前年と比べて約6割増えた。

 西側から厳しい制裁を受けても、「有事の金」・「安全資産」として換金できることが証明された格好だ。ドル資産が制裁で差し押さえられ、事実上使えないのと比べ、金はいざという時にも売買できる世界的な流動性が、新冷戦が始まった中、今後も評価されていきそうだ。また、中国の仲介で、サウジとイランが外交の正常化に動いたことは、中長期的にドル離れ・金買い要因となる。覇権国家・基軸通貨を巡る歴史の中で、大きなターニングポイントとなるだろう。

ロシアの金の個人需給推移

 

 

 

このコラムの著者

菊川 弘之(キクカワ ヒロユキ)

NSトレーディング株式会社 代表取締役社長 / 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)。
GelberGroup社、FutureTruth社などでのトレーニーを経験後、商品投資顧問会社でのディーリング部長等経て現職。
日経CNBC、BloombergTV、ストックボイス、ラジオ日経など多数のメディアに出演の他、日経新聞、時事通信などに連載、寄稿中。
また、中国、台湾、シンガポールなどで、現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。

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