[Vol.1447] 「銀行の不安連鎖」は「出し渋り」が一因

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。69.80ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。1,995.30ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年05月限は11,745元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。23年05月限は505.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1,004.20ドル(前日比0.60ドル拡大)、円建てで4,245円(前日比64円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月24日 13時14分頃 6番限)
8,335円/g
白金 4,090円/g
ゴム 206.3円/kg
とうもろこし 41,610円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「『銀行の不安連鎖」は「出し渋り』が一因」
前回は、「『複雑さを愛せ』今どきの金(ゴールド)分析」として、筆者が考える金(ゴールド)市場を取り巻く七つのテーマ(円建ての場合は八つ)を述べました。

今回は、「『銀行の不安連鎖』は『出し渋り』が一因」として、非西側による「二つの出し渋り」と西側の銀行の不安連鎖(筆者イメージ)を述べます。

なぜ、「銀行の不安連鎖」が起きているのでしょうか。さまざまな理由が報じられていますが、広範囲の関連事項をまとめると、ウクライナ危機下の非西側(≒非民主的国家)が行っている、「二つの出し渋り」が一因であると考えられます。

つまり、「銀行の不安連鎖」は、ウクライナ危機とつながっている可能性があるのです。以下は、そのイメージ図です。「二つの出し渋り」とは、「資金の出し渋り」と「モノの出し渋り」です。ロシアなどの非西側は、ウクライナ危機を続けることで「二つの出し渋り」を行う口実を得て、それらにより西側にダメージを与えていると、考えられます。

西側の常識では、ロシア制裁を科されれば音(ね)を上げて降参するはずですが、図で示したように、ロシアをはじめとした非西側は「二つの出し渋り」をすることで西側にダメージを与え、メリットを享受していると考えられます。そのメリットが制裁によるデメリットを上回るのであれば、「危機を継続する」という判断は、ある意味自然かもしれません。

「資金の出し渋り」については、「否定できない」という範囲ですが、留意が必要だと考えています。ルール上の制約があるとはいえ、クレディ・スイスへの追加の出資を行わないとし、同社の株価暴落の直接的なきっかけをつくったのは、足元、ロシアやイランと急速に距離を縮めつつある「サウジアラビア」の銀行でした。

また、FTX(かつての暗号資産大手。2022年11月に破綻)が破綻する前に一時、買収検討していると報じられたものの「出資をしなかった」、暗号資産の交換業者「バイナンス」の創始者・現CEOが西側と一線を画す、ロシアと結びつきを持つ国の出身(同社のウェブサイトより)であることも「出し渋り」を想起させます。

(結果として、バイナンスが買収しなかったことが一因となり、FTXが破綻し、その余波で暗号資産業界と関わりが深かった「米シルバーゲート」「米シグネチャー・バンク」が破綻した)

「モノの出し渋り」においては、ロシアがエネルギーや穀物を「出さない」姿勢を鮮明にしている中、さまざまなコモディティ(国際商品)価格が、2020年に比べて数倍高い水準にあります。このことは西側に「高インフレ」をもたらしています。

「二つの出し渋り」は、「銀行の不安連鎖」「高インフレ」のきっかけとなり、西側諸国のイノベーションを阻害し、競争力を低下させています。

ロシアが、西側の制裁に対抗してエネルギーや穀物を「出さない」姿勢を鮮明にしている中、さまざまなコモディティ(国際商品)価格は、2020年に比べて数倍「高い」水準にあります。2022年の高値に比べれば下落しているものの、それは記録的な高値からの反落にすぎないことに留意が必要です。

コモディティ価格の長期視点の高止まりは、西側に「高インフレ」をもたらしています。西側主要国の中央銀行は、インフレ退治ために「利上げ」に躍起になっていますが、利上げには債券の運用を難しくしたり(金利上昇・債券価格下落)、ハイテク企業の資金調達を難しくしたりして、銀行の収益を削る側面があります。こうした点はシリコンバレーバンク破綻の一因とされています。

ロシアをはじめとした非西側は、ウクライナ危機を終わらせないことで、西側の制裁に対抗する措置である「二つの出し渋り」を行う建前を維持し、これらを駆使し、西側に間接的にダメージを与えている節があります。西側が、非西側の「出し渋り」、引いては銀行の連鎖不安を断ち切るためには、ウクライナ危機を終わらせることが必要です。

「西側が脱炭素をビジネス利用すること」は、化石燃料で生計を立てている非西側の国にとって、好ましくありません。西側が化石燃料を否定し、電化などで新製品を作り、ビジネスを加速させればさせるほど、産油・産ガス国が位置する非西側のビジネスが停滞してしまいます。「脱炭素」が利益の不均衡を生んでしまっているわけです。

ウクライナ危機を終わらせるためには、「西側が脱炭素をビジネス利用しないこと」が必要であると、筆者は考えています。世界全体で、地球環境を無償の精神で改善していくことが、「脱炭素」をめぐる西側と非西側の溝を埋め、やがてはウクライナ危機を鎮静化に向かわせる一助になると考えます。それが実現するまでは「二つの出し渋り」起因の銀行の不安連鎖、引いては金相場の長期視点の高止まり・上昇は終わらないと考えます。

図:非西側による「二つの出し渋り」と西側の銀行の不安連鎖(筆者イメージ)
図:非西側による「二つの出し渋り」と西側の銀行の不安連鎖(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。