[Vol.1448] 崩壊するのか!?西側の「脱炭素神話」

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。69.73ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,991.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年05月限は11,875元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。23年05月限は507.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1010.75ドル(前日比0.65ドル縮小)、円建てで4,225円(前日比9円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月27日 16時30分頃 6番限)
8,277円/g
白金 4,052円/g
ゴム 211.1円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「崩壊するのか!?西側の『脱炭素神話』」
前回は、「『銀行の不安連鎖』は『出し渋り』が一因」として、非西側による「二つの出し渋り」と西側の銀行の不安連鎖(筆者イメージ)を述べました。

今回は、「崩壊するのか!?西側の『脱炭素神話』」として、EU(欧州連合)の新車販売における方針について、述べます。

この10数年間、「気候変動を正常な状態に戻す」というお題目のもと、西側諸国の国民は少なからず、原油や天然ガスなどの「化石燃料」に負の印象を抱いてきました。化石燃料は、消費されるとき、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)を排出してしまうためです。

例えば、ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を考慮した企業・投資活動)や、SDGs(国連サミットで採択された、2030年を期限とする、持続可能でよりよい世界を目指すための17の国際目標。Sustainable Development Goals)は、おおむね2000年代はじめに原形ができ、2010年代に本格的な潮流となりました。

SGDsはその名の通りゴールであり、ESGはそうしたゴールに到達するための手段と言えるため、セットで認識されることがほとんどです。広く言えば「世界を良い方向に導くもの」、一部について言えば「気候変動を正常化させるもの」として、特に西側諸国で浸透してきました。

学校で先生たちが積極的に子供たちに教えるようになったり、国や企業が投資家にESGに準拠している企業へ投資することが正しいことだ、などと伝えるようになったりしたため、多くの西側諸国で、ESGやSGDsは「正義」、それに反する考え方は「悪」、のような風潮が芽生えました。

しかし、先週末、こうした風潮に逆行するような報道がなされました。EU(欧州連合)の欧州委員会とドイツ政府が、これまでの方針を撤回し、条件付きで化石燃料を使って走る内燃機関車(ガソリン車やディーゼル車)の新車販売を認めることで合意したのです。(28日にもEU内で正式に合意する見通し)

「気候変動を正常な状態に戻す」ための国際的なルール作りを主導したり、電気自動車(EV)の普及を加速させたり、温室効果ガス排出権取引の仕組みを積極的に整備したりしてきた「あの」EUが方針転換をしたのです。これにより、これまでの潮流が変わる可能性が浮上しました。

その意味では、今回の方針転換によって、EUが先頭に立って支えてきた、気候変動を正常な状態に戻すための具体的な手法とされ、神話めいた位置にまで昇りつめた「脱炭素」のイメージが、崩れつつあるように思えます。

図:EU(欧州連合)の新車販売における方針
図:EU(欧州連合)の新車販売における方針

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。