[Vol.1450] 方針撤回の真意「産油国への譲歩」!?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。73.77ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,989.80ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。23年05月限は11,890元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年05月限は524.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1017.5ドル(前日比0.55ドル拡大)、円建てで4,248円(前日比79円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(3月29日 9時43分頃 6番限)
8,296円/g
白金 4,048円/g
ゴム 209.3円/kg
とうもろこし 42,000円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス


出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「方針撤回の真意『産油国への譲歩』!?」
前回は、「EUの方針撤回のカギとなった『合成液体燃料』」として、合成液体燃料の製造過程と二酸化炭素の相殺について、述べました。

今回は、「方針撤回の真意『産油国への譲歩』!?」として、EUにおける合成液体燃料の利用について、述べます。

前回述べたEUの方針撤回(禁止することにしていた内燃機関車の新車販売を容認する)については、「EU自身が現実路線に立ったこと」も、理由の一つであると考えられます。EV傾倒は、「脱炭素(理想)」を神話化できたとしても、経済成長や世界情勢(現実)の安定化を実現することが難しいことに、EUが気づき始めたのではないか、ということです。

ウクライナ危機が勃発し、多くのEU諸国は、ロシアの戦費調達の助けとならないように「買わない」姿勢を維持しています。ロシアはその制裁への応酬として、EUに原油や天然ガスを「出さない」姿勢を堅持しています。

EVを普及させ「電化」で脱炭素を進める理想を追い求めていた中で、「買わない西側・出さないロシア」の構図が1年強続き、発電のための天然ガスが乏しくなり、危機感を覚えた時、EUはふと「電化だけで脱炭素を達成することは難しい」と気が付いたのかもしれません。

これまで、日本が得意としてきた「ハイブリッド車」を否定したり、パリ協定から脱退した国に否定的な姿勢を示したりした、「あの」EUが、ウクライナ危機勃発から1年強が経過し、現実路線に立ったのかもしれません。

EUが、「神話」や「理想」よりも、直面している危機に対し、現実的な解を見つけなければならなくなった、という事情が見え隠れします。

内燃機関車の新車販売を可能にした「合成液体燃料」に死角はないのでしょうか。

(1)製造コストが高い(ガソリンの数倍との試算あり)、(2)同燃料を使うことで相殺した二酸化炭素を誰が削減したことにするか明確なルールがない、(3)自動車(同燃料を充填した内燃機関車)の性能・走行時のパフォーマンスに悪影響がないかを確認できるデータが多くない、(4)同燃料を使用することを前提に販売された内燃機関車が、使用者の判断でガソリンや軽油などの化石燃料由来の燃料を充填して走行する可能性がある、などいくつも課題があります。

EUは、これからこうした課題を解決していくことになるわけですが、二つ目の二酸化炭素の削減分を誰のものにするのかを明確にすること(そもそも個体差が生じ得る車一台単位で排出量を特定することは困難なのではないか)、四つ目の使用者がガソリンや軽油を使用する可能性があること(合成液体燃料よりもガソリンや軽油が安い場合は特に)は、解決策を明示することは非常に難しいと筆者は考えます。

そうした意味では、合成液体燃料の使用でさえ、実は「現実路線ではない」といえるでしょう。では、方針撤回の真意はどこにあるのでしょうか。筆者は、産油国など非西側諸国への一定の譲歩を示し、ウクライナ危機勃発の根本原因の一部を取り払うため、だと考えています。

ウクライナ危機勃発の根本原因の一つに、EUを含む西側が強く推進してきた「環境問題」「人権問題」に対する非西側の反発が挙げられると、筆者は考えています。

西側諸国の多くは、「環境問題」を取り上げて、産油国・産ガス国を目の敵にしたり(主要産ガス国との長期契約を更新しないなど)、「人権問題」を取り上げて、問題があったとされる国の方針に介入したり、同国で生産された品の不買をしたりしてきました。

西側は自分たちの考え方が正しいと疑わず、ある意味、非西側に「悪」を押し付けてきたのかもしれません。こうした背景を考えれば、今回のEUの方針撤回(完全にEV化せず、遠い将来に化石燃料の使用(一部)再開の余地を作る)は、非西側(特に産油国)への譲歩という意味を含んでいるように思えます。

図:EUにおける合成液体燃料の利用について


出所:筆者作成

 

関連ページ

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。