[Vol.1469] しないはずの「置き去り」に非西側は失望

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。78.78ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。2,007.20ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年09月限は12,045元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年06月限は568.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで904.2ドル(前日比4.30ドル拡大)、円建てで3,979円(前日比87円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月25日 大引け時点 6番限)
8,592円/g
白金 4,613円/g
ゴム 212.0円/kg
とうもろこし 42,500円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「しないはずの『置き去り』に非西側は失望」
前回は、「『原油高継続』に成功している非西側」として、WTI原油先物の推移を確認しました。

今回は、「しないはずの『置き去り』に非西側は失望」として、「非西側」の産油国が躍起になって減産をする理由について、筆者の考えを書きます。

減産を実施しているOPECプラス(OPEC(石油輸出国機構)に加盟する13カ国と、ロシアなどの非加盟の10カ国、合計23カ国)に属する産油国の多くは非西側です。なぜ「非西側」の産油国は減産に躍起になるのでしょうか。

理由は三つあると、筆者は考えています。(一)自国の情勢安定、(二)西側への制裁(戦時対応)、(三)西側への制裁(長期視点)、です。

(一) 自国の情勢安定
IMF(国際通貨基金)によれば、非西側の主要産油国の財政収支が均衡するときの原油価格はおおむね「67ドル」です(サウジアラビア、イラク、オマーン、クウェート、UAEにおける2021年・22年の平均)。

産油国にとって、財政収支が均衡するときの原油価格は、国内の情勢が良くなるか悪くなるかの節目と言えます。「国民へのバラマキ」で成り立っている産油国は特に、こうした価格(節目)を「割らせない」ことを最重要課題と認識しているようです。

このため、非西側の産油国は減産を実施し、原油価格を高値で維持し(あわよくば上昇させ)、国内情勢を安定化させようとしているのです。4月に見られた、70ドル割れ→追加減産決定、という動きは、こうした背景があると考えられます。

(二)西側への制裁(戦時対応)
「減産実施」は「非西側産油国による西側への制裁」という意味があります。西側はロシア(非西側の大国)の原油を「買わない」、あるいは事実上「上限価格」を設定しています。ウクライナ危機を勃発させたロシアの戦費を削ぐ(そぐ)ための制裁です。

OPECプラスは、同組織が誕生した2016年12月から新型コロナがパンデミック化した2020年のはじめまで、OPEC(サウジ主導)のみの総会を先に行い、おおむねその翌日にOPECと非OPEC(ロシア含む)の閣僚会合を行っていました。このころはまだ、サウジの意向が反映されやすい時期でした。

しかし現在は、総会前にロシアを含んだ共同閣僚監視員会(JMMC)を行い、そこで減産などの方針をほぼ決定しています。OPECプラスはロシアの影響を強く受ける組織に変貌したのです。そのロシアは、産油国共通の願いである「原油価格上昇」を旗印に、組織内で減産を主導していると、考えられます。

今、われわれ日本を含む西側諸国は、非西側の産油国(ロシア主導)が実施している減産による原油高のおかけで、高インフレにあえいでいます。これはまさに、「非西側産油国による制裁」だと言えるでしょう。

(三)西側への制裁(長期視点)
SDGs(持続可能な開発目標)は、「誰も置き去りにしない(No one will be left behind)」ことを謳っています。2015年9月の国連総会で採択されました。OPECプラスが誕生する前年のことでした。

採択後、時が経つにつれ、「化石燃料は悪」「それを生産する国との付き合いを減らすべき」というような風潮が出てきました。それと同時に、化石燃料を否定することによってビジネスが活発化していきました(ESG(環境、社会、企業統治)を考慮した投資活動、電気自動車などの製造・販売・使用など)。

SDGsは「誰も置き去りにしない」はずでしたが、非西側の産油国は、「置き去り」にされてしまいました。収益の柱である化石燃料を否定され、収益を失えば失うほど、西側の収益は増えていく構図が目立ち始めました。

しないはずの「置き去り」が起きたことで、長期視点では、非西側の産油国は西側に対し、少なからず、失望や怒りに似た感情を持っている可能性があります。それが今、「減産実施」という行為に表れていると、筆者は考えています。近年、産油国が中国と急接近しているのも減産実施と同様、こうした背景(西側への失望)があると考えられます。

上記のように考えれば、「減産(≒原油価格高止まり)」には、複数の意味あることがわかります。非西側産油国は減産を実施することで、これらをまとめて実現していると言えるでしょう。非西側産油国にとっての減産実施は、単なる価格つり上げ策ではないのです。

図:「非西側」の産油国が躍起になって減産をする理由
図:「非西側」の産油国が躍起になって減産をする理由

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。