[Vol.1497] OPECプラスの内部事情は悲喜こもごも

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。71.22ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。1,976.10ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年09月限は12,105元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。23年07月限は521.9元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで934.6ドル(前日比7.60ドル縮小)、円建てで4,246円(前日比11円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月7日 15時07分時点 6番限)
8,772円/g
白金 4,526円/g
ゴム 214.6円/kg
とうもろこし 40,780円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「OPECプラスの内部事情は悲喜こもごも」
前回は、「減産継続は、長期視点で相場を下支えするため」として、減産実施時の減産参加20カ国の原油生産量など(一部筆者推定)について、述べました。

今回は、「OPECプラスの内部事情は悲喜こもごも」として、OPECプラスにおける2023年6月と2024年の生産量上限の差(増産余地の増減幅)について、述べます。

前回、来年(2024年)はOPECプラスに60万バレルの表向きの減産をする余地ができたと書きました。これは全体の話であり、個別にみると様子が異なります。以下は、現在(2023年5~12月まで)の生産量の上限と、今回の会合で決定した2024年(1~12月まで)の生産量の上限の差です。

この値は、表向きの減産の根拠であるわけですが、「増産の余地」にもなり得ます。「上限」ですので、この量よりも少ない量の生産をしていた場合は、ここまでは生産量を増やしてもよい(増産できる)、ここまで生産量を増やしても、減産非順守にはならないわけです。

60万バレルという全体の増産余地(表向きの減産余地)は、OPEC(10カ国)分が62万バレル、非OPEC(10カ国)分がマイナス1万バレルです(四捨五入の都合で差し引きした値が合わない場合がある)。この場合の「マイナス」は、さらに厳しい減産を強いられたことを意味します。

一部で「UAEに有利、ナイジェリアに不利な決定がなされた」と報じられているのは、このためだと考えられます。このように、国によって有利不利が生じているのは、冒頭の会合の概要の箇所で述べた「埋め合わせ」の原則が適用されているからだと、考えられます。

これまで、減産を順守してこなかった国はペナルティとして、順守してきた国に増産枠を献上するようなイメージです。

今回の会合の資料には、実際の生産量を調査する上で、三つの情報源※を参照するようにする旨の記載があります(※IHS(英国)、ウッド マッケンジー(英国)、ライスタッド エナジー(ノルウェー)。いずれも西側色が強い国の調査機関である点が興味深い)。

マイナスが大きく、埋め合わせで不利な状況に追い込まれた西アフリカ諸国(ナイジェリア、アンゴラ、コンゴの3カ国)は、こうした機関によって生産量の調査がなされる旨、名指しされています。

今回の会合で、OPECプラスは全体の増産余地(表向きの減産余地)を設定することに成功したとみられますが、内部的には悲喜こもごもだったと言えるでしょう。こうした状況より、OPECプラスは決して一枚岩ではないと言えますが、同時に、守っていない国には徹底して減産を守らせる、ある意味強い一面を持っているとも言えます。

図:2023年6月と2024年の生産量上限の差(増産余地の増減幅)
NY原油先物(期近) 日足

出所:OPECの資料およびライスタッド エナジーのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。