[Vol.1504] 「中央銀行」起因の上昇圧力増強

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。70.14ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,976.15ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。23年09月限は12,130元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年08月限は531.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで982.45ドル(前日比3.65ドル拡大)、円建てで4,465円(前日比32円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(6月16日 18時50分時点 6番限)
8,882円/g
白金 4,417円/g
ゴム 210.5円/kg
とうもろこし 43,000円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「『中央銀行』起因の上昇圧力増強」
前回は、「『代替通貨』起因の圧力の方向転換」として、市場が見込む米国の金利水準見通しの変化について、述べました。

今回は、「『中央銀行』起因の上昇圧力増強」として、リーマンショックを起点に考える、西側・非西側間の「分断」と金(ゴールド)相場への影響について、述べます。

世界的な金(ゴールド)の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の統計によれば、2022年の中央銀行の金(ゴールド)の買い越し量(購入-売却)は過去最高でした。リーマンショックが発生した2008年から、急激に売り越し(純売却)幅が小さくなりはじめ、2010年以降、買い越し(純購入)が続いています。

筆者は、そのリーマンショックが、ウクライナ危機勃発の遠因であると考えています。そう考えると、2008年以降、非西側の中央銀行がこぞって金(ゴールド)の保有量を増やし始めた背景を、各段に説明がしやすくなるためです。以下の図は、その思考の流れを示しています。

WGCの別の統計で明らかになっているとおり、非西側の代表格と言えるロシア、中国、インド、トルコなどの中央銀行の金(ゴールド)保有高は、非西側の「脱西側(脱ドルの意味を含む)」が進んだと考えられるリーマンショック後に、急増しています(分断起因の「見えないリスク」も意識された可能性あり)。また、2023年第一四半期の中央銀行の金(ゴールド)積上げ量(購入-売却)は、第一四半期として過去最高でした。

ウクライナ危機、枠組み乱立、高インフレなど、いくつもの大きな混乱が同時発生している中で、非西側の中央銀行たちは、今後も混乱に乗じ、したたかに、保有量を増やしていく可能性があります。この点は、年末、さらに長期視点の金(ゴールド)相場への上昇圧力を強める要因になり得ます。

今回までの数回で、「フタがされて上値を伸ばせなくなっている金(ゴールド)相場」を題材に、金(ゴールド)相場を取り巻く七つのテーマを確認しました。そして、なぜフタがされたような動きになっているのかを、考えました。

その後、年末にかけて上昇圧力を増やす原動力となり得る「代替通貨(下落圧力から上昇圧力に転じる)」と「中央銀行(さらに上昇圧力が増す)」について詳細を述べました。こうした背景から、ニューヨーク金先物(中心限月)相場の2023年12月の終値は、現在よりも高くなると、筆者は考えています。以下は、可能性は高くはありませんが、「最大瞬間風速」のシミュレーションです(条件がいくつも重ならなければ成し得ません)。

例えば、新型コロナがパンデミック化したことで不安が強まったり(有事ムード起因の上昇圧力発生)、米国の金融緩和が始まったり(代替通貨起因の上昇圧力発生)したことで史上最高値(当時)をつけた2020年8月の高値は、終値に比べておよそ5.6%高くなりました。

ウクライナ危機勃発直後に急騰したとき(有事ムードと、株価不安定化による代替資産起因の上昇圧力発生時)の2022年3月の高値は、終値に比べておよそ6.3%高くなりました。また、銀行の連鎖不安や米国の債務上限問題が噴出(有事ムード起因の上昇圧力発生)して急騰した2023年5月の高値は、終値に比べておよそ5.2%高くなりました。

仮に、2023年12月の終値が2,180ドルとなり(しばしば目にする年内2,200ドル説に類似)、かつ同月が急騰する展開になった場合、先述の急騰した月の高値と終値の関係(差が6%)と重ねると、同月の高値はおよそ2,303ドルになります。

七つのテーマが一様に、金(ゴールド)相場に強い上昇圧力をかけるなど、非常にまれなケースが起きれば、成し得るかもしれません。「最大瞬間風速」を実現し得る、強い風が吹くか、継続して金(ゴールド)相場の動向を注視していきたいと思います。

図:リーマンショックを起点に考える、西側・非西側間の「分断」と金(ゴールド)相場への影響
図:リーマンショックを起点に考える、西側・非西側間の「分断」と金(ゴールド)相場への影響

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。