米覇権・基軸通貨ドルの揺らぎが始まりつつある

著者:菊川 弘之
ブックマーク
 米長期金利が4%を超えるのは、3月以来。その前に4%台だったのは2022年11月。過去4%台を超えてくると、金への売り圧力は高まるが、結果として買い場を提供することになっている。更に、4%越えの金利に対する売り圧力あるものの、着実に金利上昇に対する耐久力は上がっており、値位置も2022年と比較すると、1900ドルを維持するなど、NY金の強さが表れている。1900ドル以下を買い拾おうとする実需・中央銀行も多い。今後、インフレ再燃と共に、悪い金利上昇がより強く意識されてくると、金利上昇と共にNY金の上昇も並行して起きてくるだろう。

 BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が8月に開く年次定例サミットで、米ドルに替わる非米側の基軸通貨としてBRICS共通通貨の創設を決めそうだ。これは、世界的な決済におけるドルの役割を弱めるだろう。ドルの動きを、金利差や金融の側面だけで分析しては見間違う。国際秩序に大きな地殻変動が起きている事を忘れてはいけない。米金利上昇に対して金が耐性を強めているのも、国際秩序の再編が一因だ。BRICSによる基軸通貨の地位獲得劇は、世界貿易、海外直接投資、投資家のポートフォリオに劇的かつ予期せぬ影響を与えるだろう。BRICS共通通貨参加予定は、「BRICS」に加え、数十ヶ国が参加の意思を示している。

 仏歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏曰く、「世界が不安定化していく中心はアメリカだ。世界がこれから先に向き合うのは、アングロサクソン圏、とくにアメリカの「後退のスパイラル」だ。問題は、ロシアでも中国でもなく、アメリカだ。」高齢のバイデン・トランプいずれが当選しても、米国の分断は続き、世界の不確定要因となるだろう。

 基軸通貨ドル・米覇権体制が足もとから徐々に揺らぎを見せている中、金への資金回帰は継続していく。


 

 

このコラムの著者

菊川 弘之(キクカワ ヒロユキ)

NSトレーディング株式会社 代表取締役社長 / 国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)。
GelberGroup社、FutureTruth社などでのトレーニーを経験後、商品投資顧問会社でのディーリング部長等経て現職。
日経CNBC、BloombergTV、ストックボイス、ラジオ日経など多数のメディアに出演の他、日経新聞、時事通信などに連載、寄稿中。
また、中国、台湾、シンガポールなどで、現地取引所主催・共催セミナーの招待講師も務める。

https://www.nstrading.co.jp/

http://market-samurai.livedoor.biz/