[Vol.1541] 市場が見込む「来年利下げ」シナリオ

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。83.25ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,962.55ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年01月限は12,980元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年09月限は631.3元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1058.2ドル(前日比2.50ドル拡大)、円建てで4,728円(前日比3円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月9日 17時20分時点 6番限)
8,883円/g
白金 4,155円/g
ゴム 195.9円/kg
とうもろこし 40,480円/t
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「市場が見込む『来年利下げ』シナリオ」
前回は、「インフレ鈍化で利上げ継続動機薄まる」として、米政策金利(FFレート)と米消費者物価指数(CPI)について、述べました。

今回は、「市場が見込む『来年利下げ』シナリオ」として、米金利先物をもとに計算された市場の金利見通しについて、述べます。

米国の金利見通しを考える上で重要な切り口は、「誰が」その見通しを示しているか、です。FRB(米連邦準備制度理事会)と市場の、主に二種類です。前者は金利動向やそれを左右するさまざまな要素を吟味し、直接的に金利の誘導目標を決定します。しばしば、金利見通しそのものと言える、フォワードガイダンスを示すことがあります。

一方で、後者の「市場」による見通しは、正は期待、負は懸念という「思惑」を映したものだと言えます。景気が悪い→利下げが起きれば景気が良くなる→利下げ見通し(期待)増幅、逆に、景気が良い→利上げをしないとインフレが深刻化する→利上げ見通し(懸念)増幅、という具合です。

あくまで、金利動向を決定するのはFRBであるため、市場の見通しにどれだけの意味があるのか、不透明感はあります。しかし、FRBが対話する相手に「市場」が存在する以上、FRBにとっても、市場の状況を把握することは必要でしょう。

市場の思惑をどう受け止め、どう反応するのか、そこに「市場との対話」があるわけです。市場の思惑を突っぱねたり、迎合せずにあえて時間をかけて受け止めたり、まるで人と人との会話のようです。

市場の期待に正当性があった場合でも、あえて時間をかけて受け止めることはあるのかもしれません。特にこれまで市場と正反対の立場を取っていた場合はなおさら時間をかける必要があるでしょう。

その意味では、前回の図「米政策金利(FFレート)と米消費者物価指数(CPI)」で示したとおり、2022年に三倍速の利上げと言われた0.75%の大きな規模の利上げを四会合連続で行った後、ということもあり、仮に市場が利下げを催促したとしても、FRBはすぐには利下げをすることはないでしょう。

しかし、例えば、2006年半ばから翌2007年半ばがそうであったように、1年程度、金利水準を高止まりさせた後に利下げを始める、というシナリオは、ある程度現実的と言えるかもしれません。そう考えれば、高水準まで上昇した足元の金利水準は、1年程度、現状を維持し、その後、低下が始まる可能性が出てきます。

以下の図のとおり現在(2023年8月4日時点)、市場は来年末(今から1年半後)、89%の確率で金利水準が4.50%以下になっていると予想しています。現在の金利水準は5.25~5.50%ですので、来年末には本格的に利下げが始まっていることを想定しているとみられます。1年程度経過後に利下げが始まるという先ほどのシナリオの方向性と符合します。

金利水準が低下すればドル安観測がさらに強まり、ドル建て金(ゴールド)相場により一層、上昇圧力がかかると、考えられます。

図:米金利先物をもとに計算された市場の金利見通し(4.50以下)(2023年8月4日時点)
図:米金利先物をもとに計算された市場の金利見通し(4.50以下)(2023年8月4日時点)
出所:CMEのFed Watchツールのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。