[Vol.1542] 「名乗らぬ買い手」、存在感大

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反発などで。84.36ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,952.25ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年01月限は12,985元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年09月限は640.2元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1050.3ドル(前日比7.60ドル縮小)、円建てで4,732円(前日比19円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月10日 18時08分時点 6番限)
8,868円/g
白金 4,136円/g
ゴム 197.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「『名乗らぬ買い手』、存在感大」
前回は、「市場が見込む『来年利下げ』シナリオ」として、米金利先物をもとに計算された市場の金利見通しについて、述べました。

今回は、「『名乗らぬ買い手』、存在感大」として、「名乗らぬ買い手」による金(ゴールド)純購入量について、述べます。

2010年ごろから発生している金(ゴールド)価格の長期上昇トレンドの一因に、「中央銀行の純購入量増加」が挙げられます。価格上昇が目立ちはじめた2010年ごろは、中央銀行の純購入量が増加し始めたタイミングでもありました。

2023年上半期(1~6月)の中央銀行による金(ゴールド)の純購入量は、上半期として過去最高になったと報じられました。同年第二四半期(4~6月)に勢いが衰えたものの、同年第一四半期(1~3月)に見られた純購入量が第一四半期としての過去最高になったことが貢献しました。

こうした中央銀行の純購入増加は、2010年ごろから目立ち始めた価格上昇の大きな立役者だと言えます。中長期的(数年~数十年)視点の金(ゴールド)相場上昇要因です。

新興国の中央銀行が買っている、といわれていますが、実は購入した国がわからない「名乗らぬ買い手」も存在します。以下のグラフは、「名乗らぬ買い手」による金(ゴールド)購入量の推移です。同買い手による純購入量は、中央銀行全体の純購入量の数量から、判明している個別国の純購入量(合計)を差し引いて算出しています。

2022年第三四半期(7~9月)、「名乗らぬ買い手」の純購入量は300トンを超えました。このとき、「名乗らぬ買い手」の純購入量は、中央銀行全体の純購入量の66%を占めました。名乗っていない国はどこ?という問いが、市場関係者の間に広がりました。

当該データを含む統計が公表された直後、ウクライナ危機による混乱に乗じ、脱ドルを推進する意味で「中国」が純購入量を増加させたのではないか、と報じられました。

たしかに2022年第三四半期はその可能性がありますが、中国は2022年11月以降、判明している個別国にあたる「名乗る買い手」になったため、2023年第一四半期は、この数値から除外されることとなりました。

中国が「名乗る買い手」になったとしても、「名乗らぬ買い手」の純購入量は130トン以上で、中央銀行の純購入量の48%程度を占めます(2023年第一四半期)。いずれかの中央銀行が、したたかにコツコツと金(ゴールド)を買っているわけです。

この数回で、短中期的な上昇、中長期的な上昇の背景と今後を展望しました。目先1年程度は、両方の上昇圧力は継続する可能性があると、筆者は考えています。

現在と状況が変わらなければ、年内にNY金先物は史上最高値となる2,100ドル/トロイオンスに到達、大阪金先物は9,000円台定着(最大瞬間風速で1万円到達)もあり得ると考えています。金(ゴールド)相場を観察する際は、短中期、中長期、超長期、という具合に、材料を影響を及ぼし得る時間軸で分類することをお勧めします。

図:「名乗らぬ買い手」による金(ゴールド)純購入量 単位:トン
図:「名乗らぬ買い手」による金(ゴールド)純購入量 単位:トン

出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。