[Vol.1557] FRBの方針が変わっても緩やかに上昇

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。84.03ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。1,969.85ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年01月限は14,160元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。23年10月限は654.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで986.15ドル(前日比5.35ドル縮小)、円建てで4,608円(前日比8円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(9月1日 16時30分時点 6番限)
9,073円/g
白金 4,465円/g
ゴム 224.2円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「FRBの方針が変わっても緩やかに上昇」
前回は、「1万円という歴史的水準まで上昇」として、歴史的水準到達を支えた三つの要因について、書きました。

今回は、「FRBの方針が変わっても緩やかに上昇」として、FRBが緩和的措置に転換した場合の国内金(ゴールド)小売価格への影響について、書きます。

金(ゴールド)は、世界各地で異なる通貨建てで同時に取引されています。取引量の多さ、歴史・慣習などの理由で、指標(中心的な存在)は「ドル建て金(ゴールド)」です。

このため、ドル建て以外の金(ゴールド)価格は、指標であるドル建て金(ゴールド)価格に追随する傾向があります。今回1万円に到達した国内大手地金商の金(ゴールド)の価格も、ドル建て金(ゴールド)の価格に追随する傾向があります。

しかし、しばしば、例外めいた状況が発生する場合があります。為替が大きく動いた場合です。国内大手地金商の金(ゴールド)価格は円建てであるため、ドル/円相場が大きく動くと、例外めいた状況になりやすくなります。今が、その状況に近いと言えます。

足元、ドル建て金(ゴールド)相場は「高止まり」状態です。今年に入り、長期視点の高水準である1,920ドルをはさんだ、プラスマイナス120ドル程度のレンジ相場で推移しています。国内大手地金商の金(ゴールド)のように、急騰していません。

指標(ドル建て金)がこうした状態の中で、原則それに従属的な立場である円建て金を急騰させているのが、「円安」方向に推移するドル/円相場の動きです。

ドル建て金(ゴールド)相場が高止まりしているのは、ドル高(FRB(米連邦準備制度理事会)が引き締め的な金融政策を継続することを示唆したことを受けて)起因の下落圧力と同時に、各種不安(中国の経済不安やウクライナ危機起因の不安が根強いことを受けて)が醸成する有事ムード起因および、代替資産物色(株価指数の乱高下を受けて)起因の上昇圧力が、同時にかかっているためです。

また、円安が加速しているのは、FRBによる引き締め的な金融政策(相対的な円安要因)と、日本銀行による緩和的な金融政策が、同時進行しているためです(日米金利差拡大)。

ドル建て金(ゴールド)の高止まりは、国内大手地金商の金(ゴールド)価格を下支えしていると言えますが、急騰要因とまでは言えません。ドル建て商品に比べた割安感を醸成して価格を大きく上昇させている円安こそ、国内大手地金商の金(ゴールド)価格の大台達成に最も貢献した要因だと言えるでしょう。

今後も、FRBが引き締め的な金融政策を継続することを示唆していることと、日銀が緩和的な措置を続けていることを受けて、さらに円安が進行する可能性があります。これは、引き続き、国内大手地金商の金(ゴールド)価格を押し上げる要因になり得ます。

ドル建て金(ゴールド)価格が高止まりしていれば(少なくとも急落しない状態が続いていれば)、円安を手掛かりに、国内大手地金商の金(ゴールド)価格は、1万円台が定着し、次の大台(例えば1万1,000円)を目指す可能性があると、筆者はみています。

FRBの方針が、現在の引き締めから緩和(利上げ打ち止めや利下げ示唆)に変わった場合は、どうなるのでしょうか。以下のとおり、国内大手地金商の金(ゴールド)価格は、(ドル安の反対側の)円高に抑えられながらも、ドル建て金(ゴールド)価格に追随し、緩やかに上昇すると、筆者は考えています。

FRBが緩和的な措置をとったことで発生したドル安の際、ドル建て金(ゴールド)価格が大きく上昇したことがあります。2009年から2013年ごろまで断続的に続いた大規模な金融緩和(QE1~3)の時、「ドル安・ドル建て金高」が目立ちました(ドル建て金は急騰状態)。

また、コロナショック(2020年)後の大規模な緩和時も、「ドル安・ドル建て金高」が目立ちました(この時、ドル建て金価格は初めて2,000ドルに到達)。

FRBが緩和的な措置をとると、ドル安・ドル建て金(ゴールド)高が起き得ます。緩和的な措置を好感し、楽観ムードと株高が生じ、有事ムードと代替資産(株の代わり)起因の下落圧力は発生しますが、FRBの緩和的な措置起因のドル安は、そうした下落圧力を上回る上昇圧力を生む場合があります(株高でもドル建て金(ゴールド)高が起き得る)。

将来的に、FRBが緩和的な方針に移行し、円安という強力な上昇圧力がなくなった場合でも、ドル建て金(ゴールド)高という、基本原則に基づいた本来の上昇圧力に支えられ、国内大手地金商の金(ゴールド)価格は緩やかな上昇局面を迎える可能性があると、筆者はみています。

(ある意味1万円到達は、円安が急進していることの証でもあるわけですが…)今後も、歴史的な大台に達した国内大手地金商の金(ゴールド)をはじめとした、金(ゴールド)価格全般に、短期、長期、両方の視点で注目していきたいと思います。

図:FRBが緩和的措置に転換した場合の国内金(ゴールド)小売価格への影響
図:FRBが緩和的措置に転換した場合の国内金(ゴールド)小売価格への影響

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。