[Vol.1643] 多彩な状況になった金(ゴールド)相場

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。71.85ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。2,039.05ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年05月限は13,695元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。24年02月限は556.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1105.7ドル(前日比7.50ドル拡大)、円建てで5,207円(前日比5円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(1月11日 16時30分時点 6番限)
9,515円/g
白金 4,308円/g
ゴム 254.8円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「多彩な状況になった金(ゴールド)相場」
前回は、「資産形成にも『脱昭和』は必要」として、筆者が考える昭和時代を示すキーワードについて述べました。

今回は、「多彩な状況になった金(ゴールド)相場」として、ウクライナ危機が発生した2022年の各種銘柄の騰落率などについて述べます。

前回述べた「シンプルを多彩に」については次の事例が参考になります。以下は、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して世界中が一気に有事ムードに包まれた2022年の各種銘柄の騰落率と、その時の金(ゴールド)の値動きの背景です。

世界的に有事ムードが高まった2022年の金(ゴールド)の騰落率は、ドル建てがマイナス0.3%、円建てがプラス19.9%でした。シンプルに「有事の金買い」に従えば、世界の指標であるドル建ては上昇するはずですが、実際はそうなりませんでした。このケースでは、過去の同じような事象にあてはめて相場の方向性をうらなう「シンプル」な考え方は誤りだったわけです。

こうした値動きの背景を図の右で説明しています。2022年のドル建て金(ゴールド)相場は、資金の逃避先需要を生む「有事ムード」、株の代わりの「代替資産」、ドルの代わりの「代替通貨」の三つのテーマ起因の上下の圧力に挟まれ、結果的にほぼ動かず、だったと考えられます。

有事発生を受けて資金の逃避先需要が増したり、株価が乱高下したりして二つの文脈で金相場(ドル建て)に上昇圧力がかかったものの、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げを急いだことをきっかけとしたドル高によって「代替通貨」起因の下落圧力が同時にかかりました。

「シンプル」な発想どおりに相場が推移しなかったのは、現在の金(ゴールド)相場が、多彩な状況になっているためです。「有事ムード」だけでなく「代替資産」と「代替通貨」を、同時に考慮する必要があるのです。

さらに状況を混乱させたのは、円建て金(ゴールド)が高騰したことでした。円建て金(ゴールド)価格は、ドル建て金(ゴールド)とドル/円の各相場から計算されているケースがほとんどです。

当時、FRBによる利上げと日本銀行の緩和的な措置が同時進行し、急速に円安が進んでいました。この急速な円安が円建て金(ゴールド)高騰の最も大きな理由でした。不安拡大をきっかけに日本国内の投資家らが国内で大量に金(ゴールド)を買っているから価格が急上昇している、わけではなかったのです。

このように、「シンプル」な発想だけでは、ドル建て金(ゴールド)価格の騰落率がマイナスだったことや、円建て金(ゴールド)価格が急騰したことを正しく説明することができません。

現在の投資環境で価格動向を考えるためには、多彩であることが欠かせません。このことは金(ゴールド)相場に限った話ではなく、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で取引が可能な投資信託でもETF(上場投資信託)でも個別株でも同じです。社会の変化を受けて市場環境は変化しています。変化したからこそ、シンプルではなく多彩な発想が必要なのです。

図:ウクライナ危機が発生した2022年の各種銘柄の騰落率など
図:ウクライナ危機が発生した2022年の各種銘柄の騰落率など
出所:マーケットスピードIIなどのデータをもとに筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。