[Vol.1663] イラン経済を疲弊させた欧米の制裁

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。73.58ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,046.20ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年05月限は13,365元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。24年03月限は572.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1158.5ドル(前日比6.30ドル縮小)、円建てで5,431円(前日比8円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(2月8日 18時18分時点 6番限)
9,710円/g
白金 4,279円/g
ゴム 280.8円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天証券の取引ツール「マーケットスピードⅡ」より

●本日のグラフ「イラン経済を疲弊させた欧米の制裁」
前回は、「イランの輸出主要品目と相手国の変化」として、イランの輸出額増減上位5分類について述べました。

今回は、「イラン経済を疲弊させた欧米の制裁」として、イランの原油輸出量と財政均衡に必要な原油価格ついて述べます。

イランに対する制裁(簡単に言えばお仕置き)が続いています。2000年代半ばから断続的に国連、米国などがイランに制裁を科しています。これにより、イラン産原油を輸入する国が減りました(日本もしかり)。核開発を進めるイランをけん制するために国際社会がイランの活動を抑制しているのです。

以下の図のとおり、制裁をきっかけにイランの原油輸出量は目に見えて減少しています。制裁を科す側の思惑通りです。このことが主因となり、先述のとおりイランの輸出総額は2000年から2021年にかけて半分以下になりました。

制裁がイランに与える影響は原油輸出量の減少やそれによる輸入総額の減少だけではありません。図中のオレンジの点線のとおり、IMF(国際通貨基金)が公表しているイランの財政収支均衡に必要な原油価格は、制裁時に上昇、制裁解除時に下落しています。

イランの財政事情が急激に悪化する制裁時は、財政を安定させるために一定水準の原油価格が必要になります。原油輸出量が減少して失われる収入を、原油価格という単価を引き上げることで補う、という考え方です。

制裁が科される前、わが国日本もイランから多くの原油を輸入していた2000年代前半の同価格は30ドル程度でした(2000年から2005年の平均)。しかし制裁が始まり、原油輸出量が急減しはじめたことを機に、同価格は上昇しはじめ100ドル超が常態化しました。

制裁解除期間は一時的に40ドル程度まで低下したものの、米国による制裁再開を機に急騰し、足元では300ドル前後で推移しています。

原油相場が300ドル程度でないと財政収支が均衡しない状態は、産油国として異常な状態だと言えます。IMFのデータによれば、イランと同じ湾岸産油国であるサウジラビアの2023年の同価格は80.9ドル、イラクが75.8ドル、オマーンが72.2ドル、クウェートが70.7ドル、UAEが55.6ドル、カタールが44.8ドルです。生産量の規模を考慮すれば、これらの平均は70ドル台前半だと考えられます。

イランの300ドルが異常なまでに高いことが改めてわかります。異常な高さは国内情勢が大変に疲弊していることを示唆しています。制裁はイラン経済に大きすぎる打撃を与えていると言えます。

図:イランの原油輸出量と財政均衡に必要な原油価格 単位:百万バレル/日量
図:イランの原油輸出量と財政均衡に必要な原油価格 単位:百万バレル/日量

出所:IMFおよびOPECのデータより筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。