[Vol.1704] 主要産油国からの同時供給減少懸念

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。85.47ドル/バレル近辺で推移。

金反発。米10年債利回りの反落などで。2,364.65ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。24年09月限は15,070元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年05月限は662.5元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1371.45ドル(前日比6.85ドル縮小)、円建てで6,692円(前日比43円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月10日 18時45分時点 6番限)
11,470円/g
白金 4,778円/g
ゴム 327.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 6,300.0円/mmBtu(22年10月限 22年8月5日午前10時35分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル

出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「主要産油国からの同時供給減少懸念」
前回は、「上下圧力の板挟み状態の中で原油高」として、NY原油先物(日足 終値)の推移について述べました。

今回は、「主要産油国からの同時供給減少懸念」として、供給減少懸念と需要増加観測(一例)について述べます。

前回述べた産油国からの供給減少懸念については、以下の三点が挙げられます。中東地域、ロシア、OPECプラスです。このうち、中東地域とロシアは、戦争がきっかけで生産や輸送ができないなどの理由です。OPECプラスは生産計画に基づいた人為的な減産です。

中東地域では、2023年10月にパレスチナ自治区の一つであるガザ地区を実効支配するイスラム武装勢力「ハマス」がイスラエルを奇襲したことをきっかけに急速に情勢が悪化しています。こうした中、イスラエルは停戦協定を無視したり、先月末から今月にかけて複数回、シリアを攻撃してイランの軍事関連の要人を殺害したりしています。

中東地域の情勢悪化は、大規模な原油生産国を擁する同地域からの原油供給が途絶する懸念を高め、原油相場に上昇圧力をかけています。

ロシアにおいては、2022年2月から続くウクライナ戦争のさなか、ウクライナ軍がロシアの石油関連施設をドローンで攻撃するなど、世界屈指の原油生産国の一つで武力による供給障害が起きました。また、モスクワ郊外の劇場でイスラム過激派組織がテロ攻撃を行いました。このテロ攻撃の犯行声明を行ったのは、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」でした。

ロシアは、アラブの春(北アフリカ・中東の民主化運動の波)以降続くシリア内戦で、同シーア派寄りイランとシリアのアサド政権を支援して空爆を行いました。このためISには、ロシアを攻撃する動機があったとされています。ここにも、ロシアとイランの遠からぬ結びつきが浮かび上がってきます。

OPECプラスについては、一部に「原油価格を上げるためにやみくもに減産をしている」、という指摘がありますが、この指摘は西側先進国の考え方に偏っており、中立の立場で述べられたものではありません。産油国は産油国の道理で動いています。

西側と非西側の間に分断がある以上、非西側の産油国には、価格を上げることや西側先進国に対して出し渋りをする動機が存在することになります。分断の解消無くして、減産の終わりなし、ということだと、筆者は考えています。

需要増加観測の二つは、中長期視点であるため、直ちに原油相場を大きな上昇圧力をかけるわけではありませんが、上昇圧力を生む出す材料として、徐々に意識されてきています。

EV(電気自動車)先進国をうたった米国や欧州でハイブリッド・シフトが起き始めたことは、環境問題を解決させるために行ってきた「脱炭素」に見直しが必要であることを、当事国たちが認めたことと同義でしょう。

走行時に二酸化炭素を排出しないEVから、化石燃料を燃焼させる動力源を持つハイブリッド車への移行が本格化すれば、原油の需要は、想像していたEVだけの世界(理想郷)よりも増えることとなるでしょう。こうした世界はすぐに到来するわけではありませんが、いずれ、訪れるかもしれません。

図:供給減少懸念と需要増加観測(一例)
図:供給減少懸念と需要増加観測(一例)

出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。