[Vol.1794] 市場関係者は「四つのゾーン」を意識したい

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。73.20ドル/バレル近辺で推移。

金反落。中東情勢の緊張が緩和する期待などで。2,545.25ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年01月限は16,290元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。24年10月限は547.4元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1584.3ドル(前日比10.70ドル縮小)、円建てで7,347円(前日比22円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月21日 17時43分時点 6番限)
11,812円/g
白金 4,465円/g
ゴム 337.0円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,110.0円/mmBtu(24年11月限 24年8月16日15時01分時点)

●NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物(期近) 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「市場関係者は『四つのゾーン』を意識したい」
前回は、「『魔性』とは、魔物のように人を惑わす性質」として、「魔性(ましょう)」と金(ゴールド)の性質を確認しました。

今回は、「市場関係者は『四つのゾーン』を意識したい」として、人の「四つのゾーン」を確認します。

前回述べたことおり、金(ゴールド)は魔性の性格を持っています。こうした中で、われわれ市場関係者はどのように金(ゴールド)と向き合うべきなのでしょうか。「魔性」の奥にある「本性」に考えを巡らせることが、われわれが求められていることであると考えます。これは、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を順守するためにも、必要なことです。

そもそも、金(ゴールド)は、みすみす魔性の存在にしておくには、惜しい存在です。金(ゴールド)を、単なる「恐怖の媒介者」や「恐怖の吹きだまり」にしては、もったいないです。だからこそ、「本性」に注目する必要があります。それにはこれまでの常識を超えた発想が必要です。

発想を飛躍させるには、情報の発信者・受け手ともに自分自身の現在地を知る必要があります。そして、目的地との距離を認識する必要があります。人の「ゾーン」に注目することで、現在地や目的地を知ることができます。以下は、国内外の多くのビジネス書などで述べられている「四つのゾーン」(一部、筆者加筆)です。

簡略化され、快適ゾーン(恐怖ゾーン込み)と学習ゾーン(成長ゾーン込み)の二つで述べられるケースもありますが、ここでは各ゾーンの違いをより明確にするため四つを示しています。

快適ゾーンは安全・安心を感じる、低リスク・低リターン、少し退屈、安全と制御への誤解をともなうゾーンです。そして恐怖ゾーンは他人に気を取られる、言い訳・弁解をする、低い自尊心、間違いを気にするゾーンです。

専門家は、多くの人は、安心で退屈な快適ゾーンと、依存・低信頼の恐怖ゾーンを行き来していると指摘しています。これらのゾーンでは、思考法は具体、視野・志向は点・現在、という傾向があります。このため、金(ゴールド)を魔性の存在に位置付けている情報の発信者や、恐怖にあおられる情報の受け手の多くは、これらのゾーンにいると、考えられます。

学習ゾーンは挑戦して問題を解決、過ちを認める、新しいスキルの獲得、高い自尊心をともなうゾーンです。そして成長ゾーンは夢を謳歌(おうか)、高揚感、目的と意義の発見、新しいゴールの設定、誰・何にも制限されないゾーンです。

自律・無限大の傾向がある成長ゾーンは自立・高信頼の傾向がある学習ゾーンの発展形です。このため、これら二つのゾーンにいる情報の発信者と受け手は広い視野、高い視座で物事を認識する傾向があることから、金(ゴールド)市場を見る際は「本性」の部分を見ていると、考えられます(魔性の部分を承知した上で)。

金(ゴールド)を単なる「恐怖の媒介者」「恐怖の吹きだまり」にしないために、われわれ市場関係者(情報の発信者・受け手)は、少なくとも学習ゾーンにいる必要があります。一般に、恐怖ゾーンから学習ゾーンに移行することは難しいと言われていますが、筆者が考える誰にでもすぐできる移行方法があります。それは「読書」です。

もし、本レポートを読んでいただいているあなたが今、快適ゾーンか恐怖ゾーンにいると感じておられれば、どんなジャンルでも構いませんので、月に2冊程度、異なるジャンルの本を読んでみるとよいでしょう。

紙の本をゆっくりめくりながら、じっくりと文章を味わうことを習慣付けることで、今よりも格段に、具体と抽象を行き来できるようになり、情報で線や面、立体を描けるようになり、語彙力がさらに増すでしょう。そうなれば、学習ゾーンの入り口に立ったも同然です。

実は「学習ゾーンへの移行」は、金(ゴールド)投資に限らず、全ての投資に有効です。8月初旬の大暴落の際、あわてて売った方、そうでなかった方、安値で買った方、さまざまだったと思いますが、目先の恐怖に駆られたり、間違いを気にしすぎたり、誰かの言葉を気にしすぎたりして、残念な結果となった方もおられると想像します。

学習ゾーンや成長ゾーンにいる投資家であれば、あの暴落をチャンスに替えられたかもしれませんし、仮に損が発生していたとしてもそれを「自分のこと」と捉え、納得できているかもしれません。情報の発信者においても同様です。恐怖をいたずらに流布しない、あおらない情報発信は、学習ゾーンや成長ゾーンにいなければできないと筆者は考えています。

図:人の「四つのゾーン」
図:人の「四つのゾーン」
出所:各種資料より筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。