[Vol.1876] 米国:「掘りまくる」には100ドルが必要

著者:吉田 哲
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原油反落。米国の主要株価指数の反落などで。69.55ドル/バレル近辺で推移。

金反落。米10年債利回りの反発などで。2,631.69ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年05月限は17,580元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年02月限は543.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1700.44ドル(前日比30.76ドル縮小)、円建てで8,518円(前日比45円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(12月19日 大引け時点 6番限)
13,132円/g
白金 4,614円/g
ゴム 365.9円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,940円/mmBtu(25年4月限 12月18日18時27分時点)

●NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物(期近) 日足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「米国:『掘りまくる』には100ドルが必要」
前回は、「OPECプラス:生産シェアと原油高を享受」として、OPECプラスの減産(イメージ)を確認しました。

今回は、「米国:『掘りまくる』には100ドルが必要」として、米シェール最主要地区「パーミアン地区」の掘削済井戸数と原油相場を確認します。

米国の事情を確認します。米国にある五つのシェール主要地区のうち、最も原油生産量が多いパーミアン地区(テキサス州とニューメキシコ州にまたがる地区)に注目します。

同地区の原油生産量は米国全体のおよそ48%です。足元の生産量である640万バレル/日量は、イランやイラク、UAE(アラブ首長国連邦)などの名だたるOPEC(石油輸出国機構)の産油国を上回る規模です。

トランプ氏が今年の選挙戦で述べた「掘って、掘って、掘りまくれ!」の号令の下、リグ(井戸を掘る掘削機のこと。原油生産を行うポンプではない)をフル回転させて掘削済井戸数を増やそうとしたとしても、以下のグラフのとおり、もともと高水準にあるパーミアン地区の同井戸数を急増させることは難しい可能性があります。

原油相場が2013年から2014年前半の水準である120ドル近辺に達すれば、パーミアン地区の掘削済井戸数は、毎月600基程度に達する可能性はあるかもしれません(足元450基程度)。つまり、「掘りまくれ」は、原油価格が今よりも高い水準であることが前提になっている可能性があるのです。

また、米国の戦略石油備蓄(SPR:Strategic Petroleum Reserve)が、バイデン政権下で急減しています。トランプ政権はパリ協定を再度離脱して石油の消費を増やす公算だと報じられています。

その通りになれば、石油を多用する社会→非常時の備え拡大の必要性増大→戦略備蓄の積み増し、という流れが目立つ可能性があります。戦略備蓄の積み増しはある意味、一般社会から石油を吸収すること、つまり需要拡大でもあります。

2025年1月から始まるトランプ政権2期目では、号令はかかれども、原油価格が今よりも高くならない限り、思ったほど原油生産量が増えない可能性があります。また、戦略備蓄の積み増しという需要が発生する可能性があります。全体として、米国をめぐる事情は原油相場に上昇圧力をかけ得ると、筆者は考えています。

図:米シェール最主要地区「パーミアン地区」の掘削済井戸数と原油相場
図:米シェール最主要地区「パーミアン地区」の掘削済井戸数と原油相場
出所:EIA(米エネルギー省)のデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。