[Vol.1909] 短期急騰要因と長期底上げ要因が同時進行中

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。72.53ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,916.81ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。25年05月限は17,825元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反発。25年03月限は620.8元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1883.21ドル(前日比13.69ドル縮小)、円建てで9,536円(前日比32円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(2月12日 17時50分時点 6番限)
14,298円/g
白金 4,762円/g
ゴム 374.8円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,527円/mmBtu(25年5月限 2月12日17時31分時点)

●カカオ豆先物(CFD) 月足  単位:ドル/トン
カカオ豆先物(CFD) 月足  単位:ドル/トン
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「短期急騰要因と長期底上げ要因が同時進行中」
前回は、「板チョコ価格1.5倍、コーヒー価格は1.6倍」として、各種食品の小売価格(県庁所在地平均)を確認しました。

今回は、「短期急騰要因と長期底上げ要因が同時進行中」として、食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料(2025年2月時点)を確認します。

食品の小売価格が決まるまでの流れをイメージすると、原材料が海外産の場合、板チョコレートやショートケーキなどの価格は「小売価格」であり、最も「川下」に位置します。

小売価格の一つ上流には、流通業者や加工業者、販売店などの間で売買される際の「卸売価格」、その一つ上流には、海運業者や輸入業者、商社などの間で売買される際の「輸入価格」、そしてその一つ上流には、主要な生産地や取引所で決定する、川の流れの最上流に当たる「国際価格」があります。

農産物の国際価格だけが、板チョコレートやショートケーキの小売価格を決める要因ではありません。

加工する際の機械を動かしたり、工場や小売店などで照明や冷暖房を使ったりする際に必要な電力のコストも、食品の小売価格に反映されています。容器や包装に使われるプラスチックや輸送全般に使われる燃料のコストも、反映されています。これらは、天然ガスの輸入価格や原油の国際価格の影響を強く受けています。

さらには、為替相場が輸入価格を大きく左右する場合もあります。カカオ豆の国際価格と日本のカカオ豆の輸入価格の動きを見ると、山と谷の大局的なタイミングは似通っているものの、近年は日本のカカオ豆の輸入価格が国際価格を上回っています。2012年ごろから続く、記録的な円安が要因です。

しばしば、足元の板チョコレートなどの小売価格の上昇の要因について、主要な生産国での天候不順が発生しているためだ、と説明されているのを目にします。それに加えて、先述の天然ガスやエネルギーの価格動向や、ドル/円の変動もまた、板チョコレートやショートケーキの小売価格を動かしている要因であることを、認識する必要があります。

板チョコレートやショートケーキ、オレンジジュース、コーヒーなどの小売価格の変動に大きな影響を与える、カカオ豆、コーヒー豆(アラビカ種、ロブスタ種)、オレンジ、砂糖、エネルギー(原油・日本の輸入LNG)の価格推移を振り返ります。

近年、カカオ豆、コーヒー豆(ロブスタ種、アラビカ種ともに)、オレンジの国際価格が、短期的な「急騰」を演じていることが分かります。そして、わたしたちの身の回りにある食品における嗜好品(ぜいたく品)の価格上昇の要因になり得る銘柄において幅広く、長期的な「底上げ」が起きていることも分かります。

板チョコレートの主要な原材料であるカカオ豆の国際価格は、2022年ごろを起点として大きく上昇しています。これに加えて、2000年代前半から、長期視点の底上げも起きています。

この長期視点の底上げが起きていなければ、足元の板チョコレートの小売価格上昇の規模は、今ほど大きくなかった可能性があります。このことは、コーヒー関連商品、オレンジジュース、砂糖、ケーキなどの小売価格にも当てはまります。

以下の図は、食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料をまとめたものです。「主要生産国での天候不順」「投機資金の流入」「主要国での景気回復」などは、2022年ごろを起点とした短期的な急騰の要因です。

そして、「世界的な人口増加」「ESG起因の価格上昇圧力」「異常気象の頻発」「耕作地を他の用途へ転用」「世界分断起因の出し渋り」「エネルギー価格の高止まり」などは、長期視点の底上げの要因です。

図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料(2025年2月時点)
図:食品における嗜好品に関わる国際商品の価格を押し上げている材料(2025年2月時点)
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。