[Vol.1917] 原油は上下の圧力に挟まれて「高止まり」

著者:吉田 哲
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原油反落。米主要株価指数の反落などで。70.80ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。2,955.11ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年05月限は17,650元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年04月限は551.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで1976.71ドル(前日比15.89ドル縮小)、円建てで9,627円(前日比10円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(2月25日 19時00分時点 6番限)
14,212円/g
白金 4,585円/g
ゴム 365.9円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,161円/mmBtu(25年5月限 2月25日17時16分時点)

●NY原油先物 月足  単位:ドル/バレル
NY原油先物 月足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「原油は上下の圧力に挟まれて『高止まり』」
前回は、「相場予想を大きく上回る可能性あり」として、海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(2015年1月5日を100として指数化)を確認しました。

今回は、「原油は上下の圧力に挟まれて『高止まり』」として、足元の原油相場を取り巻く環境(2025年1~2月)を確認します。

足元、原油相場の国際指標の一つであるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油は、70ドル台で推移しています。この数年間続いている、80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル程度のレンジ相場の真ん中からやや下に位置しています。長期視点では「高止まり」です。

レンジ相場とは、上昇圧力(ここでは上図の赤い上向き矢印)によって形成された下限と、下落圧力(青い下向き矢印)によって形成された上限に挟まれることで形成される相場のことです。この数年間の原油相場は、上昇圧力と下落圧力に挟まれながら、長期視点の高水準を維持しているのです。以下は、その上昇圧力と下落圧力を示した資料です。

1月20日に米大統領に就任したトランプ氏は、世界全体にさまざまな影響を及ぼしています。それに呼応するように、主要な産油国のグループであるOPECプラス※の動きも、目立ち始めています。

※OPECプラスは、OPEC(石油輸出国機構)に加盟する12の産油国と、非加盟の10カ国の合計22カ国で成り立つ、産油国のグループです。足元の原油生産シェアはおよそ46%に上ります。(2025年1月現在)

トランプ氏、OPECプラスそれぞれが、原油相場に多岐にわたる上下の圧力をかけていることが分かります。こうした圧力に挟まれて、レンジ相場で推移していると、考えられます。

また、原油相場が高止まりしていることを受けて、米国のCPI(消費者物価指数)のエネルギー部門の実数値も、高止まりしています。原油相場の動向は、米国の消費者物価指数、引いては、金融政策に大きな影響を与えます。その原油相場の動向に、トランプ氏とOPECプラスが深く関わっています。

トランプ政権二期目(トランプ2.0)がスタートし、世界情勢が急変し始めています。原油相場の動向を追うためには、同政権発足からおよそ1カ月間で生じた世界情勢の変化に注目する必要があります。

米国は、2022年2月に隣国のウクライナに侵攻したロシアと、ウクライナ戦争の停戦協議を行うことで合意しました。また、米国は武器などを提供しているイスラエルに、2023年10月に奇襲攻撃を加えたイスラム武装組織ハマスが駐留する「ガザ地区」を、米国が所有する考えを示しました。

トランプ氏が米大統領に就任してたった1カ月の間に、世界では複数の大きな変化が生じました。変化の中、中東が平和になる、ウクライナ戦争が終わる、という思惑が浮上し、原油相場が下がるのではないか、インフレが終わるのではないか、と考えた市場関係者もいたようでした。

中東情勢が鎮静化すれば中東産原油の供給懸念が後退する、ウクライナ戦争が鎮静化すればロシア産の原油の流通量が増加する、という連想が働いたためです。

とはいえ、米国はロシアとの協議に、侵略を受けた当事国であるウクライナを含めない方針を明らかにしました。さらにトランプ氏は、ゼレンスキー氏の大統領の任期が満了しているため、ウクライナで大統領選挙を行うべきだ、などと述べました。当然、ウクライナは自国を除いた協議にも、大統領選挙にも難色を示しています。

また、米国がガザ地区を所有することの議論について、イスラエルのネタニヤフ首相は生産的な議論だと述べました。一方、アラブ諸国は独自のやり方でガザ地区の問題を解決しようと声を上げ始めました。これにより、中東情勢という難解な問題が、さらに難解になりました。各所で事態が好転する期待が高まったものの、数日で、逆戻りしてしまいました。

加えて米国は、欧州の主要国で行われているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への規制を厳しく批判し、これを受けてEU(欧州連合)の主要国の要人たちが強く反発する動きも目立ち始めました。複数の前代未聞の出来事が、この1カ月間で起きたと言えます。こうした世界情勢の急変は、原油相場に大きな影響を及ぼし得ます。

図:足元の原油相場を取り巻く環境(2025年1~2月)
図:足元の原油相場を取り巻く環境(2025年1~2月)
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。2000年、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして情報配信を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。“過去の常識にとらわれない解説”をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌などで幅広く、情報配信を行っている。2020年10月、生涯学習を体現すべく、慶應義塾大学文学部第1類(通信教育課程)に入学。