[Vol.1946] 関税の税率引き上げメリット・デメリット

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。60.62ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。3,022.70ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年09月限は14,930元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年05月限は478.6元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2105.85ドル(前日比38.15ドル拡大)、円建てで10,041円(前日比9円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月8日 17時14分時点 6番限)
14,318円/g
白金 4,277円/g
ゴム 296.9円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,097円/mmBtu(25年7月限 3月21日17時47分時点)

●NY原油先物 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物 日足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「関税の税率引き上げメリット・デメリット」
前回は、「総悲観でも下落が軽微な銘柄が複数あり」として、主要銘柄の騰落率(2025年4月1日と7日午前を比較)を確認しました。

今回は、「関税の税率引き上げメリット・デメリット」として、関税とはなにか、関税の税率引き上げのメリットとデメリットなどを、確認します。

そもそも関税とは、他国から物品を輸入する者が支払う税金のことです。米国が関税の税率を引き上げると、米国内にいる輸入する者が米国に払う税金が多くなります。このため米国では税収増加というメリットが生じます。

また、関税の考え方の原点とも言える自国産業の保護・成長というメリットも生じます。関税の税率が引き上がると、輸入する者は税金というコストをより多く払って物品を輸入することになります。

コスト増加を回避する動きが目立ち、安価な物品の輸入が減れば、国内では自国産業が成長しやすくなります。さらには貿易赤字縮小というメリットもあります。その他、国家を危機にさらす違法な物品の流入防止にも、役立ちます。

税収増加、自国産業の保護・成長、貿易赤字減少、違法な物品の流入防止は、トランプ氏が繰り返し述べている「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国をもう一度偉大に)」を、実現に近づける大きな原動力になり得ます。

その意味で、トランプ氏が繰り出す関税の税率引き上げ方針は、同氏が掲げる「米国第一主義」の一丁目一番地とも言え、米国が鎖国をも辞さない(むしろ目指す?)ことを示唆していると筆者はみています。

しかし、関税の税率引き上げには、デメリットもあります。関税の税率が引き上がると、輸入する者は税金というコストをより多く払って輸入するようになります。そのコスト分が、国内の小売価格に反映され、物価高(インフレ)がこれまで以上に目立ってしまう可能性があります。この点は大きなデメリットです。

物価高が目立てば、物価の安定を目指す中央銀行の金融政策の方針に影響が及びます。米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)が昨年半ばから実施してきた利下げ(金利引き下げ)が、頓挫しつつあります。

利下げは、かつて日本がそうであったように、個人や企業の資金調達を円滑にし、景気回復要因になり得ます。しかし、物価高が目立てば、それを鎮静化させるために利上げ(金利引き上げ)を検討しなくてはならなくなります。この数カ月間、米国で利下げが進まない主因はここにあります。

また、関税の税率引き上げと報復が世界で横行して「関税戦争」がさらに深刻化した場合、世界の貿易は大きく停滞してしまいます。このことにより、世界全体で「どの国も豊かになろう」「誰一人、取り残さず豊かになろう」という考え方の下で進めてきたグローバル化の潮流が止まる可能性があります。

グローバル化の潮流が止まることで、「鎖国」状態に陥る国が現れたり、輸出で生計を立てていた国で財政悪化やモノ余りが発生したり、輸入に依存していた国で情勢悪化やモノ不足発生が発生したりする懸念があります。

今後、どれくらい世界の貿易額が減るのか(≒グローバル化が損なわれるのか)、どれくらい国家間の関係が悪化するのか(≒世界分裂が深刻化するのか)、また、この関税戦争を逆手にとって影響力を大きくしようとする国や企業が出てくるのではないか…など、不安は尽きません。

今まさに直面している、主要株価指数や原油などのコモディティ(商品)価格の急落は、こうした関税の税率引き上げによるデメリットがもたらす不安が強くなっていることで起きていると言えます。

図:関税とは?メリットとデメリット
図:関税とは?メリットとデメリット
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。