[Vol.1962] 中長期視点で相場を支える「中央銀行」

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。サウジの増産報道などで。56.52ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。3,223.24ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)休場。

上海原油(上海国際能源取引中心)休場。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2255.64ドル(前日比94.06ドル縮小)、円建てで10,689円(前日比93円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月1日 18時57分時点 6番限)
15,052円/g
白金 4,363円/g
ゴム 294.4円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,097円/mmBtu(25年7月限 3月21日17時47分時点)

●NY金先物 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「中長期視点で相場を支える『中央銀行』」
前回は、「第一の矢(短中期の矢)を支える三本の矢」として、2025年9月・10月のFOMCにおける3.50~3.75%への利下げ確率の推移を確認しました。

今回は、「中長期視点で相場を支える『中央銀行』」として、中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(1950~2024年)を確認します。

金(ゴールド)市場の変動に関わる「三本の矢」のうち、「第二の矢」は、中長期的な上昇トレンドを支える上昇圧力です。十数年間におよぶ長期の上昇トレンドを支える重要な要素です。「宝飾需要(中国・インドなど)」「中央銀行」「鉱山会社」の三つが、第二の矢を支えます。

このうち最も影響力が大きいテーマは「中央銀行」です。中央銀行は、その国の物価と雇用の最適化を実現すべく、通貨の流通量や金利水準を調節する公的な機関です。同時に、対外的に何かあった時の備えとして保有する外貨準備高の積み上げ・取り崩しも行っています。そして多くの中央銀行は、外貨準備高の一部に金(ゴールド)を組み込んでいます。

以下のグラフは、中央銀行全体の金(ゴールド)の買い越し量の推移を示しています。購入が売却よりも多い状態が買い越し、売却が購入よりも多い状態が売り越しです。近年は買い越しが続いており、かつその規模が大きい比較的傾向があります。2022年以降は、金(ゴールド)の全需要のおよそ2割を占める状態が続いています。

2010年ごろに、買い越しが目立ち始めました。2008年のリーマンショック直後に始まった、主要国の中央銀行による大規模な金融緩和が本格化したタイミングです。また、2020年の新型コロナ感染拡大時に大規模な金融緩和が行われたタイミングでも、買い越し量が大きく増加しました。

金融政策を決定する中央銀行が金(ゴールド)をどのような意図で保有しているかについて、世界的な金(ゴールド)の調査機関である、ワールド・ゴールド・カウンシルが実施している中央銀行向けのアンケート結果からヒントを得ることができます。

中央銀行が金(ゴールド)を保有する際の意思決定に関連するトピックは何ですか?という質問では、「長期的な価値保全/インフレヘッジ」「危機時のパフォーマンス」「効果的なポートフォリオの分散化」「デフォルトリスクなし」「歴史的地位」「流動性の高い資産」などが多く選択されました。

2010年ごろ以降、主要国の中央銀行は、世界経済の不安定化に対応すべく、断続的に通貨の流通量を増加させ、金融緩和を進めました。これにより、世界全体の通貨の流通量は膨大に膨れ上がり、法定通貨の価値が薄まる懸念が生じました。

先進国、新興国を問わず、中央銀行はこうした世界規模の法定通貨の価値希薄化懸念を感じ取り、金(ゴールド)をその処方箋の一つとしてきたと考えられます。現在も、主要国(特に米国)の通貨の流通量は、記録的な水準で高止まりしたままです。

膨張した通貨の流通量が元の水準に戻るまでに、相当の時間を要します。このことは、中央銀行の金(ゴールド)を保有する動機が長期視点で継続すること、「第二の矢」がもたらす金(ゴールド)相場への上昇圧力が長期視点で継続することを示唆しています。

この第二の矢は、今のところ、トランプ関税とのつながりは強くありません。短期視点のトリプル安とほぼ無縁です。ただし、トランプ関税のマイナスの影響が長期化し、中央銀行の脅威の対象となった場合は、第二の矢を強める材料として認識することになります。

図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(1950~2024年) 単位:トン
図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(1950~2024年) 単位:トン
出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料を基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。