[Vol.1961] 第一の矢(短中期の矢)を支える三本の矢

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反発。米主要株価指数の反発などで。59.93ドル/バレル近辺で推移。

金反落。ドル指数の反発などで。3,281.75ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年09月限は14,555元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年06月限は471.1元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2310.1ドル(前日比38.00ドル縮小)、円建てで10,826円(前日比49円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(4月30日 19時49分時点 6番限)
15,183円/g
白金 4,357円/g
ゴム 292.5円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,097円/mmBtu(25年7月限 3月21日17時47分時点)

●NY金先物 日足  単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足  単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「第一の矢(短中期の矢)を支える三本の矢」
前回は、「まさに『名実ともに』最高値更新」として、海外金(ゴールド)現物の実質価格の推移(月間平均、2025年3月を基準とする)を確認しました。

今回は、「第一の矢(短中期の矢)を支える三本の矢」として、2025年9月・10月のFOMCにおける3.50~3.75%への利下げ確率の推移を確認します。

一時3,500ドルに達した短期的な急騰劇の直接的な要因は、米国でトリプル安が発生したことです。トリプル安とは、同じ国の株と通貨と国債の三つが同時に売られることです。

トランプ米大統領が「相互関税」を導入すると述べた4月2日の直前(4月1日)と23日を比べると、米国債利回りが上昇(国債価格は下落)、ドル指数と米国の主要な株価指数が下落しています。

トリプル安が発生した背景には、世界全体で、米国と距離を置くムードが急速に強まったことが挙げられます。米国の株を持たない、米国の通貨(米ドル)も持たない、米国債さえ持たない、というムードです。米国の信用が世界的に急速に低下している状態です。

今回の米国のトリプル安のきっかけは、トランプ氏が「相互関税」を導入することを決めたことでした。世界全体を対象とし「かけられた関税をかけ返す」ような姿勢を鮮明にしたことで、世界全体で米国離れ、言い換えれば米国売りの強いムードが広がりました。

トランプ氏の「相互関税」発言によって、総悲観のムードが生じ、一時は金(ゴールド)も売られました。総悲観発生時の金(ゴールド)相場の下落は、2020年春の新型コロナショックの時も見られました。今回も、同ショックと同様、「現金」あるいは「現金相当」を求める動きが広がったと考えられます。(金(ゴールド)もリスク資産という考え方)

他の運用資産の損の穴埋めをするため、もともと相場が高値水準にあって含み益が出ていた金(ゴールド)を売る動きが加速した可能性もあります。

しかし、4月9日ごろ、トランプ氏の「相互関税発動、90日間猶予(中国除く)」の発言をきっかけに総悲観ムードが後退し、ほぼ全てが売られる状態はいったん、終了しました。その後、先述の「トリプル安」を受け、金(ゴールド)相場はたった2週間程度で600ドルもの上昇を演じました。

「三本の矢」は、複数の人間が力を合わせることで、大きな力が生じることの例えで、経済政策を推進する際の説明にも使われる言葉です。ここで述べる「第一の矢」は、金(ゴールド)相場の、足元の歴史的高値更新を支える直接的な上昇圧力です。3,500ドル到達の直接的な立役者です。

トランプ氏の「相互関税」発言を受けて、米国への不信が強まり米国債とドルが売られ、景気後退懸念が生じて米国株が売られました。トランプ氏が米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)に対して、景気悪化を予防するべく、金利水準の誘導目標の引き下げ(利下げ)を要求したことが、ドル売りに拍車をかけました。

こうして発生したトリプル安は、以下の経路をたどり、金(ゴールド)相場を押し上げました。短中期視点で金(ゴールド)相場に影響を与え得る「第一の矢」を構成する、有事ムード、代替資産、代替通貨の三つ全てで、上昇圧力が発生したことがうかがえます。

また、トランプ氏がFRBに対して利下げを要求したことで、今年9月と10月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、大幅な利下げが行われる可能性が大きく上昇しました。

この場合、「将来的に利下げが行われそう」という思惑が重要です。実際に利下げが行われなかったとしても、先々、将来的に、いずれかのタイミングで利下げが行われる可能性が高まっていれば、その可能性を基に、ドル安およびそれに追随した金(ゴールド)相場の上昇は起き得ます。

図:2025年9月・10月のFOMCにおける3.50~3.75%への利下げ確率の推移
図:2025年9月・10月のFOMCにおける3.50~3.75%への利下げ確率の推移
出所:Fed Watch Toolのデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。