[Vol.1975] サウジは新技術のマイナス面の犠牲者か?

著者:吉田 哲
ブックマーク
原油反落。米主要株価指数の反落などで。60.76ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。3,329.99ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反落。25年09月限は14,810元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年07月限は453.7元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2241.64ドル(前日比12.54ドル拡大)、円建てで10,732円(前日比28円縮小)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(5月22日 大引け時点 6番限)
15,454円/g
白金 4,722円/g
ゴム 321.9円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 2,097円/mmBtu(25年7月限 3月21日17時47分時点)

●NY原油先物 日足  単位:ドル/バレル
NY原油先物 日足  単位:ドル/バレル
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「サウジは新技術のマイナス面の犠牲者か?」
前回は、「サウジが持つ『二つの顔』」として、サウジアラビアの西側の顔と産油国の顔を確認しました。

今回は、「サウジは新技術のマイナス面の犠牲者か?」として、世界全体・OPECプラス(現減産実施国)の自由民主主義指数を確認します。

V-Dem研究所(スウェーデン)は、世界各国の民主主義に関わる情報を数値化し、多数の指数を公表しています。「自由民主主義指数」もその一つです。

法整備、裁判制度、言論の自由など、民主主義に関わる多くの情報を数値化したこの指数は、0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。

下記グラフは、同指数の世界全体とOPECプラスの平均の推移です。2010年ごろ、世界全体の同指数は、急激に低下し始めました。OPECプラスの同指数は、それまでの緩やかな上昇が止まり、低下し始めました。

自由民主主義指数が低くなると、法の支配や独立した司法が機能しなくなる、国家間の枠組みにおけるルールが順守されなくなる、などの動きが目立ち始め、徐々に自国の利益を第一にする考え方が支配的になります。

資源を持っている国の同指数の低下は、資源を出し渋る懸念、言い換えれば「資源を武器として利用する」可能性が高まっていることを示唆しています。

資源を持っている国は、自国の資源を武器として利用することで、(1)自国の食・エネルギー供給の安定、(2)西側に対する影響力の安定、(3)価格の安定(=高止まり)の、三つの安定を目指すことができます。

OPECプラスが協調減産(自主減産ではない)を維持していることや、ロシアが西側諸国などに対して穀物やエネルギーの輸出制限を行っていること、一時、インドが自国の食の安全保障を理由に小麦の輸出を停止したことなどは、まさに出し渋り「資源の武器利用」の例です。こうした「資源の武器利用」は、当該品目の需給ひっ迫懸念を強めます。

なぜ、世界の民主主義が停滞し始めたのでしょうか。世界で拡大し始めた新しい技術・考え方の「マイナス面」が目立ち始めたことが原因と考えられます。

2010年ごろ以降、しばらくの間、人類が本格的に開発を進めてきた技術(ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)や人工知能(AI)など)や推進してきた考え方(環境・社会・企業統治(ESG)や多様性・公平性・包摂性(DEI))は、確かに社会にプラスの影響をもたらしました。

SNSは、人々のコミュニケーションを円滑にし、AIは膨大な作業を効率化しました。ESGは環境保護や人権保護の機運を高め、DEIは他者を認める心を育んだりしました。これらは確かに、社会を良くしました。しかし、行き過ぎてしまったことで「マイナス面」が目立ち始めました。

SNSはデマ、誹謗中傷、感情噴出が横行する場となり、AIは人類から最後の資産といわれる思考を奪い、ESGは資源国を財政難など窮地に追い込み、DEIはキャンセルカルチャー(好ましくないと考える人や組織を一方的に批判したり、不買運動を行ったりすること)の温床という側面が強くなってしまいました。これらはどれも、民主主義が目指す方向と真逆を向いています。

こうして目立ち始めた民主主義の停滞は、世界分断を加速させ、戦争勃発・悪化の一因となったり、資源を持つ非西側諸国に資源の武器利用(出し渋り)を促し、さまざまな品目の価格を高騰させて長期視点の高インフレの環境をつくり出したりしました。

サウジはこうした世界的な長期視点の潮流にのまれ、前回述べた「二つの顔」を持つようになったと考えられます。その他の多くの産油国も、特にESGの普及による打撃を受け、資源の武器利用による価格の安定(高値維持)を目指す姿勢を鮮明にしていったのだと、考えられます。

新技術・考え方は良かれと思って人類が生み出しました。それゆえ、それらを撤回する動きは発生しにくく、今後も長期視点で、こうしたマイナス面は世界の民主主義を停滞させ続け、資源国を資源の武器に駆り立て続ける可能性があります。

図:世界全体・OPECプラス(現減産実施国)の自由民主主義指数
図:世界全体・OPECプラス(現減産実施国)の自由民主主義指数
出所:V-Dem研究所のデータを基に筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。