[Vol.2029] 長期底上げの背景に「世界分断」あり

著者:吉田 哲
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原油反発。米主要株価指数の反発などで。64.62ドル/バレル近辺で推移。

金反発。ドル指数の反落などで。3,449.60ドル/トロイオンス近辺で推移。

上海ゴム(上海期貨交易所)反発。26年01月限は15,525元/トン付近で推移。

上海原油(上海国際能源取引中心)反落。25年09月限は501.0元/バレル付近で推移。

金・プラチナの価格差、ドル建てで2099.85ドル(前日比6.35ドル拡大)、円建てで10,334円(前日比28円拡大)。価格の関係はともに金>プラチナ。

国内市場は以下のとおり。(8月7日 18時19分時点 6番限)
16,119円/g
白金 5,785円/g
ゴム 317.4円/kg
とうもろこし (まだ出来ず)
LNG 1,799円/mmBtu(25年8月限 5月27日15時39分時点)

●NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
NY金先物 日足 単位:ドル/トロイオンス
出所:MarketSpeedⅡより筆者作成

●本日のグラフ「長期底上げの背景に『世界分断』あり」
前回は、「需要は長期視点で増加する可能性あり」として、主要四金属の需要内訳(2024年、銅は2023年)を確認しました。

今回は、「長期底上げの背景に『世界分断』あり」として、2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景を確認します。

筆者は、中央銀行などが金(ゴールド)を購入する動機になったり、資源を持つ非西側が資源を武器として利用する動機になったりする「世界分断」は、今後さらに深まると考えています。世界の民主主義の後退がより深刻化すると考えているためです。

V-Dem研究所(スウェーデン)は「自由民主主義指数(Liberal democracy index)」を算出・公表しています。同指数は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義に関する多くの要素を考慮しています。

0と1の間で決定し、0に近ければ近いほど、その国は自由度・民主度が低く、1に近ければ近いほど、自由度・民主度が高いことを意味します。

世界の自由民主主義指数(人口加重平均)の推移を確認すると、2010年ごろに同指数の低下が始まったことがわかります。つまり、2010年ごろに世界の民主主義の後退が始まったといえます。世界の民主主義が後退し始めた原因に、新しい技術・考え方の「マイナス面」が目立ち始めたことが挙げられます。

確かに、人類が開発を進めてきた技術(SNSやAIなど)や推進してきた考え方(ESGやDEI)は、社会にプラスの影響をもたらしました。しかし、行き過ぎてしまったことで「マイナス面」が目立ち始めました。

SNSはデマ、誹謗(ひぼう)中傷、感情噴出が横行する場となり、AIは人間から思考を奪い、ESGは資源国を窮地に追い込み、DEIはキャンセルカルチャー(好ましくないと考える人や組織を一方的に批判したり、不買運動を行ったりすること)の温床となりはじめました。(これらのマイナス面はいずれも民主主義を停滞させる原因となり得る)

民主主義の停滞は、世界分断を加速させ、そして世界分断は、戦争の勃発・悪化の一因となったり、資源を持つ非西側諸国に資源の武器利用(出し渋り)を促し、さまざまな品目の価格を高騰させて長期的な高インフレの環境をつくり出したりしました。

新技術・考え方は人類の善意から生まれたため、撤回される可能性は低く、今後も長期的に、これらがもたらすマイナス面が世界の民主主義を後退させ続ける可能性があります。

こうした中長期・超長期的な流れにより、金(ゴールド)価格は、長期上昇トレンドを維持する可能性があります。資源の武器利用(出し渋り)は、白金(プラチナ)、銀(シルバー)、銅(カッパー)価格の長期視点の底上げを後押しする要因でもあります。

図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景
図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景
出所:筆者作成

 

このコラムの著者

吉田 哲(ヨシダ サトル)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト
1977年生まれ。超就職氷河期の2000年に、新卒で商品先物会社に入社。2007年よりネット専業の商品先物会社でコモディティアナリストとして活動を開始。2014年7月に楽天証券に入社。2015年2月より現職。「過去の常識にとらわれない解説」をモットーとし、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで幅広く、情報発信を行っている。大学生と高校生の娘とのコミュニケーションの一部を、活動の幅を広げる要素として認識。キャリア形成のための、学びの場の模索も欠かさない。